アパート経営を始める際に必要な申請を解説(賃貸経営)
アパート経営を個人事業主として開業すると、税制上の様々なメリットを活用できるなど多くの利点があります。
そのメリットを享受するためには、必要な開業の手続きはしっかりやっておく必要があります。
申請をしなかったことで、余計な税金を払う状況にならないように、必要な手続きをあらかじめ把握しておくことが重要です。
本記事では、開業に必要な申請や個人事業主としての利点などについて詳しく解説します。
アパート経営で個人事業主としての申請が必要なケースとは
投資としてアパート経営を始めるのに必要な届出等はありません。
実際には届出をしていない不動産投資家も大勢います。
しかし、不動産からの収入が大きくなり事業として運営するようになると、その分税金も多く支払わなければなりません。
その際に、開業届を提出しておくと確定申告で青色申告が可能となり、大きな節税効果を得られます。
事業として不動産経営を行う場合には、届け出は義務になるので必ず提出するようにしましょう。
事業とみなされるケースとは
一般的に、建物が「5棟」または「10室」以上ある場合には、副業を超えて事業としてみなされます。
これは所得税法の基本通達で規定されているもので、この基準を満たした場合には事業とみなされ、個人事業主としての登録が必要です。
ただし、10室未満の場合であっても事業とみなされることがあり、また規模が小さい場合であってもアパート経営が事業として認められることで税制優遇を受けられるケースがあります。
よって、貸室が少ない場合も事業としての開業の申請手続きを検討しておくと良いでしょう。
個人事業主としてのアパート経営には個人事業税が課せられる
個人事業主としてアパート経営を行うと青色申告ができるようになり、大きな節税メリットがある反面、所得税とは別に「個人事業税」が課されるので注意が必要です。
賃貸できる部屋数が10室以上の場合の、税率は5%です。
個人事業税は以下の計算式で算出できます。
個人事業税=(所得金額-事業主控除額)×税率5%
個人事業税には最大290万円の事業主控除があるので、所得金額が年間で290万円を超えない場合は、個人事業税は課税されません。
個人事業として不動産事業を行っていく場合には、節税のメリットを活かしつつ、個人事業税の支払いも頭に入れて運営していく必要があります。
アパート経営開始時の必要な手続き
アパート経営を始める際には下記の2つの申請手続きを行うことで、青色申告の特典などの税制上のメリットを享受できます。
● 個人事業の開業等届出書
● 所得税の青色申告承認申請書
さらに、家族を従業員として雇用する場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出も必要です。
それぞれ詳しく解説します。
個人事業の開業等届出書の提出
アパート経営を個人事業として開始する際には、開業日から1カ月以内に税務署に「個人事業の開業等届出書」の提出が必要です。
この申請をすることで正式に個人事業主としての活動が認められ、税務申告の対象となります。
開業届の用紙は、税務署でもらうか国税庁のホームページでダウンロードして取得します。
記載した用紙を税務署の窓口に持参するか、郵送での提出も可能です。
税務署の窓口に提出する際には、マイナンバーカードあるいは通知カードなどマイナンバーがわかるものと、免許証などの本人確認書類が必要です。(マイナンバーカードがある場合は、本人確認書類は不要)
郵送する場合は、申請書のほか、マイナンバーカードや本人確認書類のコピーと返信用封筒を同封して送付します。
開業届は個人情報が含まれた大事な書類なので、簡易書留など確実に届けられる方法で郵送するのが安心です。
国税庁による電子申告・納税システムであるe-Taxを利用することで、電子申請もできます。
初めて利用する際は事前の登録などが必要なので、国税庁のホームページで確認しておきましょう。
所得税の青色申告承認申請書の提出
青色申告承認申請書とは、確定申告を青色申告でしたい場合に、所轄の税務署にその申し出をするために提出する書類です。
青色申告は、所得控除や損益通算など多くの税制メリットがありますが、青色申告をするには、あらかじめ「青色申告承認申請書」を提出しておく必要があります。
確定申告のときに青色申告をしたいとしても、申請書を出していないと間に合いません。
提出期限は、確定申告を行う年の3月15日まで、もしくは開業から2カ月以内です。
もし申請期限を過ぎてしまったり、開業届だけを出していて青色申告の申請をしていなかったりした場合は、白色申告しか選べなくなりますので注意しましょう。
申請書は、開業届と同様に所轄の税務署の窓口か国税庁のホームページからダウンロードして取得できます。
提出は開業届と一緒にやっておくと良いでしょう。
青色申告承認申請書には、住所・氏名・電話番号などの基本情報のほか、所得の種類や簿記方式、関与税理士がいれば税理士の氏名などを記載します。
青色申告を行うことで、所得控除や損益通算など、多くの税制メリットを受けることが可能です。
青色事業専従者給与に関する届出書の提出
事業者が家族に支払う給与は、原則として経費にはなりません。
しかし、青色申告をしていて下記の4つの条件を満たせば、青色事業専従者給与の特例が適用され、家族従業員に支払った給与を経費に算入することが可能です。
● 青色申告者と生計を一にする配偶者または親族
● 当該年の12月31日に15歳以上
● 青色申告者の事業に6か月を超える期間専従
● 給与設定が労務の対価として妥当な金額
白色申告の場合も事業専従者控除はありますが、配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者1人につき50万円など、控除できる金額が限られています。
青色事業専従者給与の特例を希望する場合は、「青色申告承認申請書」と一緒に申請しておきましょう。
ただし、青色事業専従者給与の特例と扶養控除・配偶者控除は併用できない点に注意が必要です。
家族に従業員として一緒に働いてもらう場合は、節税効果などをしっかり考えて選択する必要があります。
必要な申請をしなかった場合はどうなるのか
個人事業としてアパート経営を始めた場合、開業申請の手続きをするのは所得税法上の義務となっています。
では、開業申請などの必要な手続きをしなかった場合にはどうなるのでしょう。
詳しく解説します。
申請しなくても罰則は特にない
個人事業の開業届を出さなかったとしても特段の罰則等はありません。
副業としてアパート経営をしている方の中には、開業届を提出していない人も多いようです。
個人事業の開業届を提出すると、日々の取引を帳簿に記載し、帳簿を保存する義務が発生します。
また、失業保険がもらえなくなる、社会保険の扶養から外れなければならない、などのデメリットがあります。
申請しないと税法上のメリットが受けられない
開業届の申請をしなくてもペナルティがないのなら、面倒だから申請しないで済まそう思う人がいるかもしれません。
しかし、開業申請をしていないと青色申告制度を活用した大きなメリットを受けられなくなります。
青色申告をするには、事前に税務署に申請して承認を受けなければならず、青色申告承認申請をするには、開業届を提出していることが前提になっています。
開業届を出していない場合には、青色申告承認申請書を受け付けてもらえないのです。
その他にも開業届を申請していない場合に、下記のようなデメリットがあります。
● 屋号での口座開設ができない
● クレジットカードを作れない
● 小規模企業共済に加入できない
● 補助金・助成金の申請ができない
これらの申請においても事業を行っている証明として、開業届の控えを求められることが多いので、開業申請は必ず行うようにしましょう。
個人事業主としてアパート経営をする4つのメリット
開業申請の手続きをして個人事業主としてアパート経営をすることには、下記の4つのメリットがあります。
● 確定申告時に青色申告を選択できる
● さまざまな経費を計上できる
● 損益通算できる
● 法人化と比べて手間や費用がかからない
それぞれ詳しく解説します。
確定申告時に青色申告を選択できる
個人事業主として開業すると、確定申告時に青色申告を選べます。
青色申告を選ぶことで、一定の帳簿管理が求められますが、所得税や住民税が軽減されるなどのメリットがあります。
青色申告の大きな利点の一つが「青色申告特別控除」です。
この控除を活用すれば、所得から最大65万円を差し引くことができ、結果的に税金を減らす効果があります。
また、家族に給与を支払っている場合、その給与を経費として計上できる「青色事業専従者給与」の制度も利用できます。
15歳以上の家族に支払った給与を経費として申告することで、さらに節税が可能です。
青色申告をするためには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
提出期限は以下の通りです。
● すでに白色申告をしている場合は、青色申告を適用したい年の3月15日まで
● 1月1日から1月15日に事業を開始した場合も、同様に3月15日まで
● 1月16日以降に事業を始めた場合は、開始日から2か月以内に提出
また、青色事業専従者給与を経費として計上する場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出することが必要です。
さまざまな経費を計上できる
個人事業主になると、青色事業専従者給与をはじめ、経費として認められる項目が増えます。
税金の負担を減らすためには、どの支出が経費として認められるかをしっかり把握し、漏れなく計上することが重要です。
開業後は、以下のような支出を経費に含めることができます。
各種税金 | 固定資産税や都市計画税、不動産取得税、印紙税など、アパート経営に関連する税金が対象です。 |
減価償却費 | 取得した固定資産の費用を、耐用年数に応じて分割して計上する費用です。 |
保険料 | 火災保険や施設賠償責任保険、地震保険などの保険料が該当します。 |
管理費 | 管理会社に不動産管理を委託した場合、その費用を経費に含められます。 |
修繕費 | アパートの修理やメンテナンスにかかる費用です。 |
広告宣伝費 | 入居者募集のために使用した広告費などが経費となります。 |
専門家への報酬 | 税理士や弁護士に支払った報酬も、必要経費として認められます。 |
これらの支出をしっかり管理し、適切に経費として計上して節税につなげるようにしましょう。
損益通算できる
事業で得た利益と損失を相殺することを「損益通算」といいます。
例えば、副業でアパート経営を始めて赤字が出た場合、その赤字を給与所得の黒字と相殺することで全体の所得を減らし、節税できます。
さらに、1年間で損益通算を行っても赤字が残る場合、その損失は翌年以降に繰り越しが可能です。
最大3年間にわたって赤字を控除できるため、経営が安定しない初期の赤字も有効に活用できます。
ただし、繰越控除は青色申告をしている場合に認められる制度です。
白色申告では基本的に繰り越しはできません。
法人化と比べて手間や費用がかからない
法人化してアパート経営を始める場合、会社設立には登録免許税や定款認証手数料などの費用がかかり、手続きも複雑になります。
さらに、法人として運営を続けるには、個人事業主にはない追加の費用や事務作業も必要です。
一方、個人事業主としてアパート経営を始める場合は、開業届を提出するだけで手続きが完了します。
特別な費用はかかりません。
こうした手軽さやコストの少なさが、個人事業主としての開業の大きなメリットといえるでしょう。
アパート経営の所得が大きい場合は法人化も検討すべき
法人化すると個人事業主にはない手間や費用が発生するため、個人事業主として開業するほうが、メリットが多いと解説しました。
しかし、所得額が増えると個人事業で経営するよりも法人化するほうが税金面での利点が大きくなることがあります。
法人化したほうが良くなる目安と、法人化のメリット・デメリットについて確認しておきましょう。
法人化の目安
個人でアパート経営をする場合、所得税と住民税が課されます。
所得税は所得が増えるほど税率も高くなり、住民税は一律で約10%です。
例えば、個人の所得が「900万円超1,800万円以下」の場合、所得税率は33%、住民税率は10%で、合計すると43%の税金がかかりますが、所得が「695万円超900万円以下」の場合は、所得税率は23%、住民税を加えると33%の税率です。
一方、資本金1億円以下の法人に課される法人税や法人事業税などを合計すると、法人の税率は約35%となります。
そのため、所得が「695万円超900万円以下」の場合は、個人でアパート経営をしたほうが、税率が低くなり、所得が「900万円超」になると、法人での経営が税制上有利になることが多いです。
法人化のメリット
法人化することで、先述したように所得税を減らせるだけでなく、以下のようなメリットがあります。
● 役員報酬を経費にできる
● 相続時に遺産分割しやすくなる
● 家賃収入の分配に贈与税がかからない
● 短期譲渡時の税負担を個人よりも減らせる
● 赤字の繰越期間が個人よりも7年長い
状況によっては、節税以外にも大きなメリットが得られる場合があります。
法人化のデメリット
法人化のデメリットとしては、法人設立のための登録免許税や定款認証などの費用が必要であること、また帳簿作成や決算などに専門知識が必要なため税理士に依頼する必要があることなどがあります。
また、途中でアパート経営を法人化する場合、不動産の名義を法人に変えるため不動産取得税と登録免許税が発生してしまいます。
特に不動産取得税は、固定資産税評価額の4%が課税されるため、決して小さい額ではありません。
こうしたメリットとデメリットを比較して、どちらの形態で運営するのが良いかを判断しましょう。
まとめ
アパート経営を始める際には、「個人事業の開業・廃業等届出書」と「青色申告承認申請書」を提出することが重要です。
開業届を出さない場合、青色申告ができず、税制上の優遇を受けられなくなるため、節税の機会を逃すことになります。
この2つの書類は提出期限があるため、忘れないよう同時に税務署に提出するのが安心です。
公的書類の作成や提出は手間に感じることもありますが、この手続きを行うことで、税制上のメリットが得られます。
アパート経営が事業として取り組む場合は、開業届を必ず出し、青色申告などの有利な制度を活用するようにしましょう。
また、事業の規模が大きくなると、法人化を検討することで、より効果的に節税ができるほか、様々なメリットがあります。
状況に応じて、最適な経営形態を選ぶことが重要です。
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