不動産相続の手続きの流れとは?遺産分割の方法も解説
不動産相続の手続きの流れとは?遺産分割の方法も解説
親や配偶者など近親者が亡くなると、葬儀などで非常に慌ただしい日々が続きます。
ようやく落ち着いたころになると、今度は相続の手続きをしなければなりません。
初めての人にとっては何をしてよいのか戸惑いますが、相続の知識を事前に持っていれば、いざというときに焦ることなく対処できます。
そこで、この記事では、一般的に相続する財産の大半である不動産を相続する際の手続きの流れを具体的に解説していきます。ぜひ最後まで読んで、参考にしていただけば幸いです。
相続財産としての不動産の特徴
相続の手続きについて解説する前に、相続財産としての不動産にはどのような特徴があるのかを確認しておきましょう。
これらの特徴をあらかじめ理解することで、不動産を相続する際のトラブルを減らすことができます。大きく5つの特徴がありますので、一つずつ解説しましょう。
相続財産に占める割合が高い
国税庁の調査によると、相続財産のうち金額ベースで一番高いのが不動産です。
以前は不動産が5割以上を占めていた時期もありましたが、年々少しずつ下がってきています。それでも土地・建物を合わせた不動産は、相続財産の4割を超えています。
分割が難しい
不動産は、現金や預貯金と比べて分割が難しいのが大きな特徴です。
例えば、建物は分割できませんから、売却して現金化し、その代金を分割しようと考えます。ところが、建物に相続人が住んでいる場合、売却によって居住場所がなくなってしまう問題が発生します。
また土地は分割可能ではありますが、一つひとつの土地の面積が小さくなってしまうと、まとまった状態よりもぐっと土地の価値が下がってしまうことがあります。
さらに土地の形状や日当たり、道路との接し方などによっても価格が大きく変化するため、簡単には分割できないのです。
評価が難しい
遺産分割協議では、不動産の金額をどのように見積もるかの決まりがありません。
評価額をいくらにするかが原因で、相続人同士で揉めることもあります。
話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所で調停や審判を行うのが一般的です。
その場合には、費用や日数もかかり、相続人の負担が増えることになります。
手続きが煩雑
相続の手続きや登記の手続きは、一般の人には煩雑でわかりにくいため、後回しにしてしまいがちです。
必要書類の種類も多く、役所や様々な関係機関に連絡して手続きをするなど、手間も時間もかかります。よって司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
管理にコストがかかる
不動産の所有者になると、固定資産税などの税金や、マンションであれば管理費や修繕積立金を支払わなければなりません。
こうしたコストは、使用せず放置している場合にもかかります。
毎年継続して支払い続けると大きな金額になってきますので、不動産を相続する場合はそれらのコストを把握することが重要です。
不動産を相続する際の流れ
不動産相続の一連の流れを、ざっと説明しましょう。
相続の手続きは、まず遺言書があるかどうかで、手順が大きく変わり、遺言書がある場合は、遺言書の記載に沿って遺産を分割します。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように分割するかを決める必要があります。
相続税の課税対象となっている場合は、被相続人の死亡を知ってから10カ月以内に申告しなければなりません。
そして、遺言書や遺産分割協議において決定された内容に従って不動産の相続登記をすれば、相続の手続きは完了です。
遺言書の有無を確認する
遺産相続が発生した場合、まずは故人が遺言書を残していないかを確認します。相続では故人の意思を尊重するのが基本的な考え方になるからです。
遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2つが使われます。
公正証書遺言は、公証人が作成する書類ですので、法的な有効性が問題になることはほとんどありません。
一方、自筆証書遺言は被相続人が自分で作成する文書であるため、要件を満たしていない場合には法的な有効性が認められない可能性があります。
全文を自筆で書く、日付を入れる、氏名を自筆で書き押印する、訂正や加筆は定められた方式に従う、書面で作成するといったことがポイントになります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見したら、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。尚、2020年7月から新たに利用できるようになった「自筆証書遺言保管制度」では、自筆証書遺言を法務局で安価な手数料で保管してもらえるようになり、検認も不要になりました。
相続人を確定する
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行いますが、そのためには相続人をすべて把握し確定する必要があります。
基本的には、民法に定められた法定相続人で協議をします。被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本をすべて集めて、血縁関係になる人を洗い出してチェックしていきます。
相続財産がどのぐらいあるか把握する
相続人が確定したら、次に相続する財産が全部でどのぐらいあるのかを把握するため、財産の一覧表(目録)を作成していきます。
相続財産に不動産がある場合は、区市町村から毎年届く固定資産税の納税通知を確認すれば詳細がわかります。
もし納税通知がなければ、区市町村役場の窓口でも確認することが可能です。
相続財産は、不動産以外の財産も含め、すべて計算しなければなりません。
このときに、預金や不動産などプラスの財産だけではなく、ローンや借金などマイナスの財産も含めて確認が必要です。
もし、マイナスの資産の方が大きい場合は、相続放棄をすることもできます。その場合、相続を把握してから3カ月以内に家庭裁判所に申請をする必要があります。
尚、相続放棄は相続人ひとりひとりが相続放棄をするか財産を受け継ぐかを決めることができますが、それぞれの相続人が個別に行う必要があり、誰か一人でも相続放棄をしたら、他の相続人も同様に財産を受け継がないというわけではありません。
また、相続財産の確認漏れがあると、手続きをやり直す必要が出てきますので、確実に把握することが重要です。
遺産分割協議を行う
相続人と相続財産が確定すれば、次に相続人全員による遺産分割協議を行います。ここで、遺産をどのように分割するかを話し合います。
協議は、必ずしも1カ所に集まらなくてもよく、電話やオンラインで話し合うことも可能です。
協議がまとまったら遺産分割協議書を作成し、実印を押印。印鑑証明書を添付して全員が同意したことの証拠を残しておきます。
もし協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停をしてもらうか、それでも決まらなければ家庭裁判所の審判を受けることになります。
相続税の申告・納付
相続税の課税対象となる場合は、被相続人の死亡を知った日から10か月以内に申告しなければならなりません。申告の期限を過ぎてしまうとペナルティが発生しますので注意しましょう。
相続税の基礎控除は、3000万円+(600万円×法定相続人数)で計算し、相続した財産の額が基礎控除以下であれば、相続税はかかりません。
例えば、父親が亡くなり、母親と子ども二人が相続人となった場合は、3000万円+(600万円×3人)=4800万円となります。
この場合、相続財産が4800万円以下であれば相続税はかからず、4800万円以上であれば超えた分の金額について課税されます。
ただし、相続税には配偶者控除が適用されるため、配偶者は相続財産の金額が1億6000万円まで課税されません。
相続財産の名義変更をする
相続が確定したら、不動産については名義変更の登記手続きが必要です。
以前は登記をしないで放置していてもペナルティはありませんでしたが、2024年4月1日から相続登記が義務化されます。
もし登記をしないで放置しておくと、過料が課せられる可能性もあります。
自ら相続登記を行うのは手続きが大変なため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
不動産相続の際に取りうる4つの方法
不動産を相続する場合には、4つの方法があります。一般的に分割が難しいといわれる不動産相続ですが、ここでは分割して相続する方法を含め、分割しない相続についても解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
現物分割
現物分割は、財産をそのまま分割する方法です。
現金は簡単に分割できますが、不動産の場合は問題となるケースも少なくありません。
1筆(筆:登記上の土地の単位)の土地を3筆に分割して相続することは可能ですが、日当たりや形状、道路に対する面し方などにより、3筆の土地の価値は異なってきます。
また相続人が多い場合などは、分割してそれぞれの土地の面積が小さくなると、価値が下がってしまうことも考えられます。
代償分割
代償分割とは、特定の相続人だけが不動産を相続し、その相続人が他の相続人に対して、相続分の金銭を渡す方法のことです。
例えば、建物に住んでいる相続人が、そのまま住み続けるため建物を相続し、他の相続人に相続分に相当する金額を支払うといった方法のことをいいます。
換価分割
換価分割とは、不動産を売却してその代金を相続人同士で分割する方法です。
希望の価格ですぐに売却できればいいですが、思うような金額で売却できない場合や、売却に時間がかかることも考えておく必要があります。
また、売却後に税金がかかるケースもあるので、注意が必要です。
共有名義
相続した不動産を分割しない場合は、相続人同士で共有することになります。
共有すること自体に問題はないですが、その不動産を売却する場合や、賃貸したいと考えた場合には、名義人全員の同意が必要です。
一人でも同意しないと売却したり賃貸したりすることができないため、思うような運用ができなくなるかもしれません。
また名義人の誰かが亡くなると、さらに相続が発生するため、権利関係が非常に複雑になる可能性があります。
不動産相続の際に必要な書類
不動産の相続登記には、どのような書類が必要になるのでしょうか。
不動産の相続登記に必要な書類は多岐に渡ります。遺言書の場合、遺産分割協議の場合、法定相続分による場合の3つのケースそれぞれについて説明します。
遺言による相続登記の必要書類
遺言によって相続登記をする場合、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本をそろえる必要がなく、相続人についても、不動産を取得しない場合は書類を提出する必要はありません。
・戸籍謄本(相続人)
・除籍謄本(被相続人)
・住民票(相続人)
・除票(被相続人)
・固定資産評価証明書
・登記申請書
・遺言書
ただし、自筆証書遺言保管制度を利用していない自筆証書遺言を相続登記に使用する際には、家庭裁判所で自筆証書遺言に検認済証明書を付けてもらう必要があります。(公正証書遺言書は検認不要)
遺産分割協議による相続登記の必要書類
遺産分割協議によって決定した相続登記の手続きをするためには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本をそろえる必要があります。
不動産を取得しない相続人の戸籍も必要です。
・戸籍謄本(相続人)
・除籍謄本(被相続人)
・住民票(相続人)
・除票(被相続人)
・固定資産評価証明書
・登記申請書
・遺産分割協議書
・印鑑証明書(相続人全員分)
・相続関係説明書
なお、相続関係説明図とは、被相続人を中心として、相続人が何人でどのような続柄なのかを表した家系図のような資料です。
法定相続分による相続登記の必要書類
法定相続分で相続人同士によって共有する際に必要な書類は、遺産分割協議の場合とほぼ同じです。
遺産分割協議をしていないので、遺産分割協議書と印鑑証明書は必要ありません。
・戸籍謄本(相続人)
・除籍謄本(被相続人)
・住民票(相続人)
・除票(被相続人)
・固定資産評価証明書
・登記申請書
・相続関係説明書
登記完了後は、法定相続の規定に従った持ち分で、相続人同士が所有権を共有するようになります。
不動産を相続する際の評価方法について
相続財産の評価は、相続開始時点の時価で評価します。
そのため、故人が亡くなった日の時価が評価額となり、相続税を申告する日が基準とはならないので注意が必要です。
では、不動産の時価はどのように調べればいいでしょうか。
国税庁では相続税・贈与税を計算する際の相続財産の評価基準について、「財産評価基本通達」で定めていますので確認しましょう。
土地の評価方法
土地の評価額は、基本的には路線価を基準とする路線価方式で評価します。
路線価とは、その道路に面する土地1平方メートルあたりの評価額のことで、国税庁のホームページで確認することができます。
計算方法としては、「路線価×土地の面積=土地の相続税評価額」となります。
路線価がない土地については倍率方式で評価します。その土地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算します。倍率は国税庁のホームページで確認することが可能です。
倍率方式の計算方法としては、「固定資産税評価額×倍率=土地の相続税評価額」となります。
固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書に記載があります。
建物の評価方法
建物については、固定資産税評価額がそのまま相続時の不動産評価額になります。
固定資産税評価額は、毎年送られてくる納税通知書に記載されています。もしわからない場合は、市区町村役場の窓口で確認することが可能です。
不動産相続の注意点
不動産相続では、注意すべき点がいくつかあります。
相続後にトラブルになることがないよう、あらかじめ確認・準備しておくといいでしょう。
相続する不動産の種類による注意点を説明します。
土地のみを相続する場合
代償分割や換価分割を行う際には、将来の値段の変動についても考慮しておく必要があります。
相続をした後に不動産の価格が大きく上がった場合などは、不動産を相続しなかった相続人から不満の声が出るかもしれません。
将来のことを予想することは難しいですが、協議の時点でわかっていることがあれば、その事実を相続人の間で共有しておくことです。
遺産分割協議では、価格が変動することも考慮しながら話し合いをするようにしましょう。
一戸建てを相続する場合
相続した一戸建てを、空家のまま放置しておくと「特定空家等」に指定され、特例措置が受けられず固定資産税が高くなることがあります。
また放置しておくことで、近隣住民とのトラブルの原因になることもあります。今後住む予定がない場合は、売却や貸し出しなどの対処法を検討するようにしましょう。
マンションを相続する場合
相続したマンションに住む予定がなければ、賃貸に出すことも可能ですが、築年数が経っていると入居者獲得が難しくなります。
毎月、管理費を支払い続ける必要があり、修繕積立金は年々上がっていくことにも注意が必要です。
相続の手続きはなるべく早めに
不動産の相続は、現金や預貯金とは異なり、分割の難しさや評価の難しさがあることを頭に入れておく必要があります。
不動産の相続の難しさを理解した上で、遺産分割協議を行うことが重要です。
不明なことがあれば、関係する市区町村の窓口担当者や、司法書士や税理士、不動産関係業者など専門家に相談するようにしましょう。
相続人が多い場合や家族関係が複雑な場合などは、遺産分割協議を行ったり必要書類を揃えたりするのが大変かもしれませんが、手続きは早め行っておくようにしましょう。
相続登記の手続きは、必要書類が多く複雑になりますので、相続に詳しい税理士や司法書士に依頼することでしっかりと円滑に進められるだけでなく、自身の負担も軽減されることでしょう。
関連記事こちらの記事も合わせてどうぞ。
2024.06.01
不動産投資における円安の影響とは?メリット・デメリットを解説
2024.05.15
アパート経営をやめるタイミングとは?出口戦略を徹底解説
2024.04.15