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不動産オーナーさま向けコラム

家族信託とは?メリット・デメリットを徹底解説

2024.03.01

高齢化が急速に進む日本での有効な財産管理手法として、家族信託が利用されるケースが増えてきています。

 

家族信託は認知症のリスク対策となり、遺産相続の負担を軽減することができる非常に便利な制度です。

 

しかし、信託制度と言われても、売買や賃貸などの契約と違って馴染みが薄く、よくわからないという方も多いでしょう。

 

そこで、この記事では、家族信託の仕組みやメリット・デメリット、手続きについて解説します。

 

自身が保有している不動産の相続を想定している方はぜひ最後までお読みください。

家族信託とは

家族信託とは、保有の財産を本人ではなく家族が管理する手法です。高齢な親が保有する財産の所有権のうち、受益権はそのまま親が持ち、管理権を子どもなどに渡して管理します。

 

成年後見制度よりも自由度の高い財産管理や運用ができるため、近年利用が広がっています。

 

家族信託の仕組み

家族信託は、「委託者」「受託者」「受益者」という3種類の立場の人によって財産の管理運営が行われる仕組みです。

 

保有する財産を自分で管理することが難しくなった委託者が、受託者に管理や処分ができる権利を渡します。

 

受託者は委託者との契約に基づいて財産を運用管理し、そこから発生した利益を受益者に渡すという関係です。

 

多くのケースでは、高齢の親が自分の子どもに委託し、そこから発生する利益を受益者も兼ねている親に支払う、という仕組みで行われています。

家族信託が注目される背景

近年の日本社会では、高齢化が急速に進んでおり、それに伴って認知症の増加が大きな問題となっています。

 

家族信託は、その対策として利用が広がっている法的制度です。

 

家族信託が注目されている社会的な背景について詳しく解説しましょう。

高齢者増加に伴う認知症の増加

日本は75歳以上の人口が2,000万人を超え、世界の主要国ではトップの高齢化率となっています。

 

高齢になるにつれ認知症を患う割合が高まり、2025年には65歳以上の高齢者のうち約675万人、5.4人に1人程度が認知症になると予測されています。

 

認知症の進行が進むと、判断能力が著しく衰えることから法律行為ができなくなります。

 

財産の処分や運用は本人の意思表示が必要なため、認知症によって意思表示が難しくなると、資産が凍結されかねません。

 

特に、賃貸不動産を所有している方にとっては他人事ではないので、しっかりと準備する必要があります。

成年後見制度では柔軟な運用ができない

家族信託以外で資産凍結を回避する手段としては、法定後見制度や任意後見制度といった成年後見制度があります。

 

判断能力がなくなった際に、任意後見制度では事前に依頼していた後見人に財産の管理を任せることができ、法定後見制度では家庭裁判所が指定した後見人が法律行為を行います。

 

ただし、成年後見制度は財産を保全することを優先して考えており、任意後見であっても積極的な財産の運用や処分を行うことは認められていません。

 

さらに、成年後見制度が有効になるのは本人の判断能力が低下したと認められてからに限られるため、それ以前の管理ができないという問題もあります。

 

また、法定後見では後見人になるのは、家族以外の弁護士などであることから融通が利かず、本人が死亡するまで継続的に報酬を支払う必要があることも負担です。

 

このように、成年後見制度では財産管理を目的として利用するには、非常に使いにくいと言わざるを得ません。

家族信託は財産承継がしやすい

家族信託では親の財産を生前から運用管理しますが、委託した親の死後も信託を継続できます。

 

例えば、父親の名義の財産を子どもが家族信託で管理していた場合に、父親の死後は母親が受益者となるとしておけば、父親の死後も安心です。

 

遺言書でも遺産の扱い方を指定できますが、本人が亡くなってからのことなので、思った通りに財産承継できたのかどうかがわかりません。

 

また、遺言書で相続の仕方を指定できるのは本人が亡くなった後のことだけです。それに対して家族信託では財産を受け取った人の死後の承継先も指定できます。

 

家族信託は利用の仕方によって自分の思ったような形で財産承継できる、ということも注目される要因のひとつです。

家族信託のメリット

家族信託にはさまざまな活用方法があり、設定の仕方によってそれぞれ違ったメリットがあります。

 

家族信託を使って財産管理することでどのようなメリットがあるのかを、具体的に解説します。

柔軟な財産管理ができる

成年後見制度は、親の認知症が発症してから有効になるため、それまでの運用ができません。

 

また、成年後見制度では財産保全が優先されるため、少しでもリスクのある投資や、直接親のためにならないような支出が認められず、積極的な運用も不可能です。

 

そして、法定後見制度では、家族以外が後見人となるケースがほとんどであるため、財産の運用に後見人の承諾を得る必要があります。

 

家族信託には、こうした成年後見制度の使いにくさを補う目的で利用できます。

 

受託者の判断で、積極的な運用や支出ができるような設定が可能です。

思いどおりの財産承継ができる

家族信託では、本人の死後に受益者になる人や財産を承継する人を指定することができます。

 

例えば、夫の死後、妻が受益者となるようにしていれば、妻が認知症になって判断能力がなくなったとしても財産の管理は問題なく継続でき安心です。

 

また、次の承継だけでなく、さらにその先(次の次以降)も指定ができるので、自身の願う通りに不動産などの財産承継ができます。

 

このように、家族信託には遺言に代わる財産承継の手法という側面があることも覚えておきましょう。

 

自身が経営する不動産を理想の形で承継したい方は、家族信託の利用を検討してみてください。

将来の共有相続に関わる紛争を予防できる

遺産相続の際、現金などは相続人同士で分割しやすいですが、不動産は簡単に分けることができず共有名義となるケースが多く見られます。

 

このため、不動産を売却したり工事を行ったりする際には、所有者全員の承諾が必要になり、手続きが非常に大変です。

 

こういったケースでも、家族信託でひとりの受託者が管理できるようにしておけば、受託者一人の意思決定によって手続きできます。

 

共有となる複数の相続人を受益者としておけば、売却の利益や家賃収入などは分配できるので、家族信託によって手間を省き平等に利益を分け合えるようになります。

相続による遺族の負担を軽減できる

通常の相続では本人の死後、相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように遺産を分けるかを決定し、その後の手続きや納税を行わなければなりません。

 

親が死亡して非常にあわただしい中、10か月以内という限られた期間で相続税の申告や納税をしなければならず、その負担は少なくないでしょう。

 

その点、生前に家族信託をしておけば、信託財産についての遺産分割を協議する必要がなく、死後も信託契約を継続できます。

倒産隔離機能がある

委託者や受託者が払いきれない負債を負うことになったとしても、家族信託している財産は差し押さえの対象から外されます。これを倒産隔離機能といいます。

 

この仕組みによって、万が一のリスクに備えることができることも、家族信託の大きなメリットです。

家族信託のデメリット

家族信託は運用の自由度が高く、設定の仕方によって幅広い形の利用の仕方が可能です。

 

ただし、便利な仕組みである家族信託であってもいくつかのデメリットがあります。ここでは家族信託のデメリットについて解説します。

身上監護権がない

家族信託はあくまでも財産管理のための制度であるため、たとえ子どもであったとしても受託者には身上監護権がありません。

 

つまり、親が認知症になって施設に入る場合でも、受託者の子どもが代理人として入居契約することができないということです。

 

身上監護するには任意後見契約が必要になりますので、家族信託と併せて子どもを後見人とする任意後見契約を結んでおくと安心です。

誰が受託者になるかで揉める可能性がある

受託者になる子どもは、親から名義を移してもらって、財産の管理や処分に関して大きな権限を持つことになります。

 

複数の子どもから1人を選ぶと、他の子どもが不公平に感じて揉めるケースもあるため、事前に十分な話し合いをしておく必要があります。

名義を受託者に移すことに抵抗感がある

家族信託を行うには財産の名義を委託者から受託者に移します。

 

そのため、勝手に使われるのではないかと心配になり、反対されることが考えられます。

 

また、家族信託の制度内容に対する理解不足から、名義が変わることを嫌がって反対することも珍しくありません。

 

理解を得てから話を進めなければ、トラブルのもとになるでしょう。

直接的な節税対策にはならない

家族信託によって名義は子どもに移りますが、受益権は親にそのままあるため、贈与税の対象とはならず子どもに対して課税されることはありません。

 

ただし、親が死亡し受益権が相続されたタイミングで受益者となった人に対して相続税が発生するため、直接的な節税対策にはならないことを知っておく必要があります。

家族信託の利用が最適なケース

家族信託は親の認知症に備えて財産管理を行う仕組みとして有効ですが、それ以外にも適しているケースが考えられます。

 

どのようなケースで家族信託を利用するとよいのかについて解説しましょう。

財産所有者の認知症対策を検討している

親の認知症対策として、所有財産を子どもに運用管理をしてもらいたい場合には、家族信託を利用することがおすすめです。

 

認知症になった場合、判断能力がないと見なされているため、不動産の売却ができないだけでなく、預金の引き出しも難しくなるため、介護にかかる費用などを賄えないという問題が発生する可能性があります。

 

そうなる前に対策として家族信託を行っておくと子どもの負担を軽減できるでしょう。

贈与税は避けたいが管理は子どもに任せたい

ゆくゆくは子どもに不動産などの財産を相続させたいと考えているのであれば、生前に贈与するという方法も考えられます。

 

しかし、その場合は多額の贈与税が子どもにかかるため、管理だけを子どもに任せたい場合には適しません。

 

その点、家族信託なら所有権の名義は子どもに移りますが、受益権は親に残るため贈与税の対象とはなりません。

 

当面の税金のことを心配せず子どもに不動産などの財産管理を任せられます。

障害がある子どもに財産を残したい

障がいのある子どもの親は、自分が亡くなった後の子どもの経済的な問題が大きな心配となります。

 

そういったケースでは、親の財産を信頼できる人に信託し、障害のある子どもを受益者とすることで、親の死後の経済的な心配はなくなります。

家族信託の手続きの流れ

ここでは家族信託の手続きの流れを紹介します。

 

家族信託ではトラブルを防ぐためにも、権利関係や受託者が行うことなどを明確にしておく必要があります。

 

家族間であってもしっかりと契約書を作り、正しい手続きをすることが重要です。

1.信託契約書の作成

家族信託を行う際には、親子の間で話し合いができていたとしても、トラブルを避けるために契約書を作成し信託契約の内容を明確にしておく必要があります。

 

契約書には、信託の目的、信託財産の範囲、財産の管理方法や処分権限の範囲、受託者・受益者が誰か、信託の終了事由などを記載するようにしましょう。

 

また作成した契約書は、万一の場合に備えて公正証書にしておくことがおすすめです。

2.信託用の口座の開設

受託者は自分の財産管理と信託財産の管理で発生するお金のやりとりを分けるために受託者の名義で信託用の専用口座を開設します。

 

口座は、普通口座でも問題ありませんが、信託財産を管理するための口座であることを明確にするため「信託口口座」にするケースが多いです。

3.信託登記を行う

信託する財産の中に不動産がある場合は、信託財産であることを明示するために、信託登記を行います。

 

登記は自分で法務局に行って申請手続きできますが、司法書士に依頼するのが一般的です。

4.家族信託運用を開始する

ここまでの手続きが済んだら、家族信託の運用が開始されます。

 

運用が開始されると同時に、信託財産管理の義務も発生するので覚えておきましょう。

家族信託に必要な費用

家族信託を行うのにどのぐらいの費用がかかるのかは、事前に知っておきたいことです。

 

契約書を作成して登記をするだけであれば、それほど多額の費用は必要ありません。

 

ここでは、家族信託にかかるおおよその費用を紹介します。

信託契約書を公正証書にする場合

信託の契約書を公正証書にする場合は、公証役場に支払う手数料が必要です。

 

信託する財産の金額に応じて1万~5万円程度の金額がかかります。

信託財産に不動産がある場合

不動産の信託登記を行う際には、登録免許税として固定資産税評価額の1,000分の4の金額を納める必要があります。

 

ただし、土地については2026年3月31日まで軽減税率が適用されており、1,000分の3が適用されます。

コンサルタント報酬

コンサルタントなどの外部の専門家に依頼した場合には手数料がかかります。

 

一般的には、信託財産が1億円以下の部分は1%、それ以上の部分は0.5%程度が相場ですが、依頼先によって大きく異なります。

 

依頼する前にしっかり確認しておきましょう。

信託監督人や受益者代理人を置く場合の報酬等

信託監督人や受益者代理人への報酬は、その職務の性質、担当する業務の量、信託財産の規模などに応じて異なりますが、一般的には月額1万円程度が目安とされています。

 

この報酬は、信託財産から支払われることが一般的で、信託契約の締結時に報酬の額や支払い条件を明確に定めることが重要です。

家族信託を行う際に決めておくべきこと

家族信託は大切な財産を長期間に渡って運用管理する仕組みです。

 

家族信託を行う前には、関係する家族の間でしっかりと話し合いを行い、下記の3つの項目について決めておく必要があります。

①受託者や受益者を誰にするか

先ず、どの財産を信託するのかを決めなければなりません。

 

信託できる財産は現金、有価証券、不動産など、財産上の価値があるものに限られます。一般的には不動産を信託財産として運用するケースが多いです。

 

借金や保証債務、生活保護受給権や年金受給権などは信託できません。

②受託者や受益者を誰にするか


場合によっては、大金を扱うケースもあるため、本当に信頼できる人を選ぶことが必要です。

 

受益者は多くの場合、委託者が兼ねますが、委託者の配偶者や障害のある子どもを受益者とするケースもあります。

③必要な場合は信託監督人を設定する

信託契約において、信託財産の管理や運用を受託者に委ねることは一般的ですが、その過程で受託者の権利の乱用や不適切な管理が発生するリスクが常に存在します。

 

特に信託財産の金額が大きい場合や、複雑な運用が必要な場合は、このようなリスクは高いです。

 

このため、信託監督人の設置が非常に重要となります。

 

信託監督人は受託者の行動を監視し、信託財産が信託契約に基づき適切に管理され、運用されているかどうかをチェックする役割を持ちます。

 

万が一、受託者が権利を乱用したり、受益者の利益を損なうような行為をしたりした場合、信託監督人は受益者に代わって適切な措置を取ることが可能です。

 

これにより、信託の透明性が高まり、受益者の信頼を確保することが可能となります。

まとめ

ここまで家族信託について解説しました。家族信託は、財産の管理運用を家族に委託し、その利益を指定した受益者が受け取ることができるため、高齢になった親の認知症対策などに有効な手段です。

 

また遺産相続でトラブルを防ぐ効果があり、死後の財産管理を自分の思うような形で行うことができることから、遺言書に代わる手法として活用されるケースも増えています。

 

自身が経営する不動産を理想の形で承継するためにも家族信託の利用を検討してみてください。

この記事を書いた人

DAINICHI 編集部 不動産チーム

DAINICHI 編集部 不動産チームは社内外の有識者により構成されています。不動産の投資、管理、運用、リノベーション、売却、有効活用などの方法について、様々な視点から不動産に関する有益な情報をお伝えします。

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