親が認知症になったときの不動産相続手続きを徹底解説
親が認知症になったときの不動産相続手続きを徹底解説
誰しも自分の親はいつまでも元気でいてほしいと願うものですが、歳を重ねていくと病気になるリスクは高まっていきます。特に認知症は、誰もがかかる可能性がある病気の一つです。
親が認知症になって判断能力が低下した場合には、健康や生活面だけでなく、経済的および法律的な問題が発生します。
この記事では、親が認知症になったときの不動産手続きをピックアップして解説します。
不動産の相続手続きは煩雑でわかりにくいところもありますが、多くの人が関わる可能性が高いため、ぜひ最後までお読みください。
認知症になるとどうなる
認知症はさまざまな原因により脳の神経細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりして、記憶・判断力の障害が起こり、生活に支障をきたす病気ですが、認知症になることで、健康・生活面や経済的・法律的な面でどういった問題が起こるのかを見ていきましょう。
健康面・生活面で発生する問題
認知症の初期症状として、ひどい物忘れ、判断力・理解力の低下、時間や場所がわからなくなるといったことが挙げられます。
症状が重くなると、生活面では、暴力、排泄トラブル、徘徊、食行動の異常などが発生し、末期には幻覚、妄想にとらわれるといったケースも多いです。
初期の段階であれば、認知症の進行を遅らせることができますが、現在のところまだ根本的な治療薬は出てきていません。
経済面、法律面ではこんな問題がある
認知症になると判断能力が低下するため、経済的・法律的に制限されることがあります。
高齢者が必要ない保険に加入したり、高額な商品を購入してしまうケースがニュースで取り上げられますが、認知症によって判断能力がないとみなされた場合は契約を無効にすることが可能です。
また、認知症であることが銀行に確認されると、口座が凍結される可能性もありますが、これは、詐欺などに巻き込まれて、お金をだまし取られることを防ぐためです。
介護費用や生活費を親自身の口座から引き出していた場合であっても、凍結されてしまうことがあるので注意しましょう。
親が認知症になった場合の不動産の相続問題
認知症になるとさまざまなトラブルに巻き込まれる可能性があるため、銀行取引や契約などの行為が制限されることがあります。
親が認知症になった場合、契約などの法律行為が無効になることもあるため、不動産相続の手続きもより複雑化します。
認知症の親が被相続人である場合と、親自身が相続人である場合の2種類のケースがありますので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
被相続人(親)が認知症の場合の不動産相続について
認知症にかかっていた親が亡くなった場合、不動産相続にはどのような問題が考えられるでしょうか。
例えば、親が遺言書を作成した時期や、生前贈与をした時期での意思能力の有無がポイントとなります。
すでに認知症が進んでいたと見なされれば、それらの行為が無効となる可能性も出てきます。
遺言書、生前贈与の有効性の有無
被相続人である親が認知症であった場合、問題になるのが遺言書の有効性です。
遺言書を作成したときに、十分な意思能力があったかどうかが重要になります。
もし、遺言書の内容に納得がいかない相続人が訴えを起こした場合、家庭裁判所では、被相続人の意思能力がどの程度あったか、認知症の進行状況や遺言書の内容から総合的に判断します。
また、相続税対策として生前贈与を行っていた場合も、その贈与契約の有効性について問われることもあります。
贈与契約が、認知症進行後に結ばれたとすれば、生前贈与が無効になる可能性が高いです。
公正証書にしておくことで不動産を相続できる
被相続人である親が認知症であっても、遺言書や生前贈与契約の有効性が問題にならないためには、どうすればいいでしょうか。
一つは、医師に診断書を出してもらい、客観的な医療記録を残すことです。
その上で、遺言書や贈与契約書を公正証書にしておくことがおすすめです。
公正証書の認証をしてもらう際には、公証人は親が認知症になっていれば診断書を提出するよう要求し、その内容を見て判断能力があると確認できた場合に公正証書の認証をします。
もし、遺言書や贈与契約書の有効性を争うことになったとしても、公正証書になっていれば無効であると判断される可能性は大幅に低くなります。
遺言書や生前贈与以外は一般の相続と同じ
被相続人が認知症であった場合に、問題になるのは遺言書や生前贈与の有効性ぐらいで、その他の点は通常の相続と変わりません。
遺言書があれば、基本的に遺言書の内容に沿って相続を行い、遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行って、分割の仕方を決めていきます。
相続人(親)が認知症の場合の不動産相続について
相続人が認知症の場合は、難しい問題があります。これまでにもお話したように、認知症になると判断力が低下するため、さまざまな法律行為ができなくなるからです。
それは、不動産相続であっても例外ではありません。
父親が亡くなって母親と子が相続人になったものの、母親が認知症を患っている、などといったケースも、今後は増えてくるでしょう。
そのような状況になってもしっかりと対応ができるよう、今後起こりえる問題を具体的に見ていきましょう。
遺産分割協議ができないため不動産を相続できない
認知症になって判断能力がなくなると、法律行為が行えなくなります。もし法律行為を行ったとしても、あとから無効になる可能性があります。
父親が亡くなり、遺言書がない場合は、母親と子どもで遺産分割協議を行いますが、遺産分割協議も法律行為ですので、認知症である母親は遺産分割協議を行うことができません。
法定後見人を選任すれば不動産を相続できる
このような場合は、認知症の母親に代わって法律行為を行う法定後見人を選任することで、遺産分割協議は可能となり不動産を相続できるようになります。
法定後見人とは、判断能力が低下している人のために、家庭裁判所の判断で選任される成年後見制度の一つです。
本人や家族などが家庭裁判所に申し立てを行い、そこで後見人を選任してもらいます。
後見人は、本人に代わって財産管理を行います。 後見人を選任すると、遺産分割協議はできるようになりますが、そこにはいくつかの問題点もあります。
後見人は家族以外から選任されることが多く、弁護士や司法書士が選任されるケースが8割ほどであり、一旦選任されれば、母親が亡くなるまで毎月報酬を支払うことが必要です。
さらに後見人は母親の利益を守ることが役割となるため、家族全体の利益を考えることがありません。 母親が少しでも損をするような決定には反対の立場になります。
不動産を売却したり、賃貸に出そうとしても、自由に決めることができなくなります。
子どもが後見人の場合は特別代理人を選任
子どもが母親の後見人になっている場合は、遺産分割協議のときだけ特別代理人を選任することも可能です。
特別代理人とは、後見人が利益相反関係にある場合にのみ、一時的に選任される代理人のことです。遺産分割協議についてだけ母親の代理人として協議に参加することができ、法定代理人のように長期に渡って報酬を支払う必要はありません。
そのためには、まず子どもが後見人になるよう裁判所に申請し、それが認められた後に、司法書士や弁護士に特別代理人となってもらう手続きをします。
しかし、子どもが後見人に選ばれる可能性は20%程度しかありません。
また選任手続きは数カ月かかるため、結果が出るまで待つ必要があります。
法定分割することで不動産を相続できる
遺産分割協議をすることは義務ではないので、遺産分割協議を行わず、法律で定められた割合で分割することも可能です。
ただし、不動産は現金のように簡単に分割できないため、相続人全員で共有することになります。
共有の不動産を売却したり、賃貸契約を結ぼうとする場合には、共有している所有者全員の合意が必要になります。
このケースにおいても母親が認知症では合意ができませんので、不動産の売却や賃貸契約はできなくなってしまいます。
法定代理人を選任してもらったとしても、売却や賃貸が親のプラスになるかどうかが判断され、代理人が反対するケースも多いです。
スムーズな不動産相続には生前対策が大切
ここまで説明したように、相続人の中に認知症の方がいると、法的な手続きをする上で制約がかかってしまうことがあります。
相続が発生した段階では、対応できることも限られてくるため、生前にしっかりと対策を立てておくことが重要です。
生前にできる対策として、遺言書の作成をすることや、家族信託制度(下記に記載)を利用することが考えられます。
遺言書を作成しておく
相続で揉めたり煩わしい問題が発生したりしないようにするためには、遺言書を作成しておくことが一番です。
遺言書があれば、故人の意思を尊重し、その内容に沿って相続することが基本的な考え方になります。
一般的に遺言書を作成する場合、自筆証書遺言あるいは公正証書遺言になるケースがほとんどです。
自筆証書遺言とは、遺言を作成する人が財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書です。特別な手続きが不要で簡単に作成できます。
ただし、法律に詳しくない人に法的に有効な遺言書が作れるのか、紛失することなく保管し続けられるか、相続人が遺言を発見できるか、といったことが担保されておらず、不安が残ります。
それに対し、公正証書遺言は、公証役場で法律の専門家にチェックしてもらいながら作成するため、法的に問題ない遺言書が作成できます。
また、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、紛失の心配はありません。
しかし、公証役場に出向いて打ち合わせをする必要があることや、相続財産の金額によって手数料がかかることがあり、利用をためらってしまう人も多いようです。
そこで2020年7月から利用できるようになったのが、「自筆証書遺言保管制度」です。
これによって自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
遺言書保管制度は、公正証書遺言と比べて手間がかからず、費用も抑えられるため、自筆証書遺言の持つデメリットを解消することができます。
コストがかからず手軽で確実な方法によって遺言書を作成してみよう、と考えている人にはおすすめの制度です。
家族信託を利用する
現在、生前に財産管理や処分方法を定めて家族に託す「家族信託」を利用する人が増えています。
家族信託とは、信頼できる家族に財産を託し、運用・管理・処分の権限を与える制度です。
判断能力がなくなる前にこの制度を利用することで、認知症になったとしても財産の管理・処分を継続して行うことができます。
また、死後もそのまま信託を続けるように設計すれば、遺言書に代わる財産継承の手段として利用することが可能です。
親が認知症になる可能性は誰にでもある
急速に高齢化が進む日本社会では、誰もが認知症になるリスクを抱えています。
自分の親もいつかは高齢になり、認知症を患うことになるかもしれません。
この記事で見てきたように、親が認知症になると、不動産の相続がスムーズにできなくなったり、売却や賃貸契約が進められなくなることもあります。
こうした事態は、近年、日本各地で問題となっており、法定後見制度を申請する件数は毎年増えています。
ただし、法廷後見人には、その制度上の目的から自由度が低く、継続的に報酬を支払う必要もあります。
できればこの方法以外で解決したいというのが本音でしょう。
実際のところ、相続が発生すると対策できる方法はほとんどありません。そのため、できるだけ生前から対策しておく必要があります。遺言書や家族信託などを利用し生前に備えをしておけば、家族の間で揉めることもなくなります。
不動産は、現金のように簡単に分割できません。相続財産のうち、不動産が占める割合が高い場合は、とくにしっかりと備えをしておくことをおすすめします。
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