2024年4月に施行される「省エネ性能表示制度」について徹底解説
近年、地球温暖化の影響による異常気象が世界各地で起きており、温暖化の原因となっている温室効果ガス(CO2)の排出削減には一日も早い対策が必要な状況となっています。
日本政府もさまざまな取り組みを行っており、その対策の一環として、2024年4月から「省エネ性能表示制度」が導入されることになりました。
この制度は新築物件を対象としているものですが、不動産業界全体にも影響が及ぶことが予想されており、不動産オーナーにも関係してくることでしょう。
そのため、本記事では省エネ性能表示制度とはどのような内容なのか、今後の流れや制度の影響がどれほどなのかについても詳しく解説します。ぜひ最後までお読みください。
省エネ性能表示制度の概要
地球温暖化の原因となっているCO2排出量を削減するためには、省エネを進めつつエネルギーを効率的に活用することが求められています。
実際、住宅や建物の省エネ対策を進める基本方針として、2022年6月には改正建築物省エネ法が公布されました。
この改正建築物省エネ法には省エネ対策のための多くの規定が含まれており、順次施行されている状態です。
そして、2022年9月には、住宅金融支援機構により省エネ住宅の改修工事に対する低利融資制度が導入されるなど、毎年のようにさまざまな施策が実行されています。
さらに、2024年4月から新たに省エネ性能表示制度が導入されることになっています。
この制度によって新築建物の省エネ性能を消費者にわかりやすく表示し、省エネ性能に優れた物件をより広く普及させようとしているものです。
カーボンニュートラルを実現するために、2050年までには中古物件を含めて建物全体でCO2排出がゼロの水準となることを目標としています。
省エネ性能表示制度とは
日本のCO2排出の割合を見ると、住宅・建築物が全排出量の約3分の1を占めています。
これは日本の住宅やビルの省エネ性能が十分でなく、冷暖房に余計なエネルギーを使っていることが原因です。
その対策として、2024年4月から新築の住宅販売・賃貸には建物の省エネ性能を表示することが努力義務として課せられるようになりました。
新築物件の販売や賃貸を行う業者は、物件ごとに省エネ表示ラベルを用いて建物の省エネ性能を消費者に分かりやすく示す必要があります。
この制度の導入によって、消費者が建物の省エネ性能に対する関心を高め、事業者から省エネ性能の高い建物がより多く供給されることが狙いです。
今後は、一定の省エネ基準を満たした建物でなければ建てられなくなる方向で進められており、2025年には省エネ基準の適合が義務化されます。
省エネ性能表示制度導入の背景
日本政府は2030年までに温室効果ガスの46%削減(2013年比)と2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標として掲げています。
これまでの日本の住宅やビルは、断熱効果が低い建物が多く、冷暖房に多くのエネルギーを要していました。
しかし、カーボンニュートラルを実現するためには、住宅やビルのエネルギー効率を高めることが必須となります。
ヨーロッパ各国やアメリカ、オーストラリアなどでは、省エネ基準が建築法の一部、あるいは政府の定めるガイドラインとして規定されており、建築許可と連動する仕組みが構築されているほどです。
日本においてもこうした諸外国の仕組みに倣って改正建築物省エネ法を設け、段階的に省エネ基準の規定に沿った住宅が提供されることを目指しています。
対象となる建物
省エネ性能表示制度の対象となるのは、建築確認の申請を2024年4月以降に提出した、以下の建物が対象となり、賃貸住宅も含まれています。
● 分譲一戸建て
● 分譲マンション
● 賃貸住宅
● 再販住宅
● オフィス・テナントビル
ちなみに、これらの建築物が再販売・再賃貸される場合も対象です。ただし、販売や賃貸の用途でない建物や自社ビル、民泊施設といったものは対象外なので覚えておきましょう。
なお、建築確認が2024年3月以前に提出された建物や、すでに建っている建物は努力義務の対象外ですが、省エネ性能が評価されている場合は表示することが推奨されています。
今後は、こうした努力義務の対象外となっている建物でも、省エネ性能を表示する流れとなるでしょう。
広告や不動産サイトの表示
建築物の販売・賃貸を行う事業者は、新築建物の販売や賃貸する際に、努力義務ではありますが、省エネ性能の表示ラベルを掲載しなければならなくなりました。
建物を販売するために作成する物件案内やチラシなどの広告類、また対象となる物件をウェブサイト上に情報掲載する際にも表示ラベルの掲載が必要になります。
不動産ポータルサイトにおいても制度に対応した掲載方式となるため、省エネ性能ラベルを取得しなければ物件に関する情報発信ができなくなります。
対象となる事業者
この制度の対象となる事業者は、該当する建物の販売業者及び賃貸業者です。具体的には、売主、貸主、サブリース事業者になります。
ちなみに、仲介業者、賃貸管理業者、設計業者、評価業者などは努力義務の対象事業者となっていませんが、この制度を実現するために重要な関係者と言えるでしょう。
違反した場合の罰則
本制度はあくまで努力義務とされており、違反した場合の罰則はありません。
しかし、販売・賃貸事業者が制度の規定に従った表示をしない場合には、勧告・公表・命令の対象になります。
省エネ性能ラベルとエネルギー消費性能の評価書
建物の省エネ性能を表示するものとして、省エネ性能をわかりやすく表示する「省エネ性能ラベル」と、取引の際の証明書となる「エネルギー消費性能の評価書」が発行されます。
この2つの表示について詳しく見ていきましょう。
省エネ性能ラベル
建物の省エネ性能に関するレベルを、星の数などで表示したラベルが省エネ性能ラベルです。
消費者が一目見てわかりやすいようになっていて、広告やチラシ、不動産ポータルサイトなどに表示します。
建物の種類、評価の方法、再エネ設備があるかないかで表示が若干異なります。
記載事項
住宅の場合、ラベルでは下記の項目が記載されています。
参照:国土交通省 https://www.mlit.go.jp/shoene-label/
ラベルの内容は視覚的に分かりやすいのが特徴で、消費者が簡単に建物の省エネ性能を判断できるようになっています。
項目 | 内容 |
再エネ設備 | あり・なしで表示 |
エネルギー消費性能 | 星の数で表示 |
断熱性能 | 断熱性能を1から7の数値で表示 |
ZEH水準 |
ZEH水準にあるかどうかをエネルギー消費性能で星3、断熱性能で5以上の建物に対してチェックマークを表示 |
ネットゼロエネルギー(ZEH) | エネルギー収支が年間でゼロ以下になる場合チェックを表示 |
自己評価・第三者評価 | 評価方法の区別を表示 |
ここに記載されているZEHとは「net Zero Energy House」の略称で、消費されているエネルギーの年間収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
商業施設ビルなどについては、「net Zero Energy Building」を略したZEBという名称で表示します。
省エネと同時に太陽光発電などによって建物内でエネルギーを創り出し、バランスとして建物内で消費されているエネルギー収支ゼロを目指す建物と理解してください。
エネルギー消費性能の評価書
建物がどの程度の省エネ性能があるかを表示するラベルと、その内容を証明する評価書を発行してもらえます。
評価書は、資料として販売・賃貸時の顧客との商談や契約時の説明に使用されるものです。
なお、評価書の記載項目は下記のとおりです。
項目 | 内容 |
①建築物の種類 | 住宅(住棟:共同住宅)、住宅(住戸:戸建て住宅)、複合建築物、非住宅建築物のどれに当たるかを表示 |
②自己評価/第三者評価 | プログラムを使った自己評価であるか評価機関によって評価されたのかを表示 |
③物件の概要 | 建物名、建物構造、階数などを表示 |
④評価の概要 | 評価日、評価対象、評価手法、評価者などを表示 |
⑤エネルギー消費性能 | 省エネ基準から判断して、どの程度の消費エネルギーが削減できるかを表示 |
⑥断熱性能 | 熱の逃げにくさと日射熱の取込みやすさから断熱性能を表示 |
⑦目安光熱費 | 省エネ性能から計算して出した年間の光熱費の目安を表示 |
⑧総合判定 | 総合的に判定した結果を表示 |
建物の省エネ性能を表示ラベルよりも詳しく評価しています。
省エネ性能ラベルや評価書の発行方法
省エネ性能ラベルや評価書の発行方法には、ウェブ上のプログラムを用いて事業者自ら行う「自己評価」と、第三者機関の評価を依頼する「第三者評価(BELS)」の2種類があります。
それぞれの発行方法について解説します。
自己評価
住宅性能評価・表示協会などのウェブサイト上で公開されている「自己評価作成プログラム」に建物の情報を入力すると、基準に基づいてプログラムが自動で判定してラベルや評価書を発行します。
販売・賃貸事業者が自らサイトにアクセスして発行できるので、手軽で便利な評価方法です。
第三者評価(BELS)
もう一つの評価方法は、販売・賃貸事業者が第三者の評価機関に申請し交付してもらうやり方です。
住宅性能評価・表示協会によって運用されている「BELS」という評価・認定制度に基づいて発行してもらうことができます。
ラベルや評価書には「BELSマーク」が表示され、自己評価よりも高い信頼性があることをアピールできます。
省エネ性能表示制度による消費者のメリット
省エネ性能表示制度は、建物の省エネ性能を高めることによってCO2削減を目指していますが、消費者(借主)にとってもさまざまなメリットがある制度です。
そして、消費者(借主)にとってのメリットは、貸主のメリットにも直結します。
ここでは消費者にどのようなメリットがあるのかを具体的に解説しましょう。
光熱費を抑えられる
断熱性能に優れている住宅は冷暖房効率が高く、電気代などの光熱費を節約できます。
これまでの日本の住宅は十分な断熱対策がとられていないことが多く、外気の影響を受けるため、室温調節に多額の電気代を要していました。
近年、電気代が大幅に上がったこともあり、多くの消費者が、光熱費がかからない住宅に注目しています。
この制度により、しっかりと断熱性能に優れているかどうかを確認することが可能なため、消費者にとって注目の指標となることでしょう。
したがって、貸主にとっても無視の出来ない制度です。
健康に生活できる
断熱効果を高めると室内が外気の影響を受けにくくなり、結露の発生を抑える効果があります。
目につかない場所に発生した結露はカビの原因となり、健康を害する、または建物の老朽化の原因となるため、このことは貸主にとっても消費者にとっても思いのほか大きなメリットです。
また、家全体の断熱がしっかりできていると家の中の温度差が少なくなるのも、消費者が健康に生活するのに寄与します。
日本では、高齢者がヒートショックでなくなるケースが毎年多く発生していますが、これは家の中での寒暖差が大きいことが原因です。
廊下や脱衣所が寒すぎることがヒートショックを引き起こしているといわれているため、家全体の断熱効果を高め、部屋や廊下などの温度差をなくすことで、ヒートショック発生のリスクを抑えられます。
環境保全に貢献できる
冷暖房などに使用するエネルギーを抑えることは、CO2の排出を削減し環境保全に貢献する有効な手法の一つです。
日本だけでなく世界各地で温暖化による異常気象などが起きていることから、環境問題に関心の高い消費者も増えています。
そういった消費者が住宅を選ぶ際の指標となる制度です。
省エネ性能表示制度による今後の不動産業界への影響
2024年4月から始まる省エネ性能表示制度は、新築物件の販売・賃貸の業者に対しての努力義務となっていますが、新築建物を扱っている業者だけでなく、不動産業界全体に大きな影響があると予想されています。
具体的にどのような影響を与えるかを解説しましょう。
新築物件のローン減税対象
2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅において、住宅ローン減税を受けるには省エネ基準をクリアしておく必要があります。
住宅ローン減税の金額も、省エネ効果が高いZEHなどの認定があれば、さらに高く認められます。
注文住宅は省エネ性能表示制度の対象外ですが、住宅ローン減税を利用するためには省エネ基準をクリアした建物であることが必須要件です。
新築不動産はもちろん中古不動産にも広がっていく
今回の制度は新築物件のみで、中古住宅では表示が推奨されるのみです。
しかし、省エネ性能に関心が高い消費者がさらに増えることは確実で、中古住宅市場においても省エネ性能が求められると予想されます。
省エネ性能の低い物件が敬遠されるようになる
電気代の高騰やエコ意識が高まったことで、住宅の省エネ性能に対する消費者の関心が高まっています。
これからは、省エネ性能が低い物件は消費者から敬遠されるようになるでしょう。
省エネ性能を差別化の要素にできる
省エネ性能に関心が高まってきたことで、建物の販売や賃貸において、省エネ性能を他の物件との差別化に用いられるようになります。
中古建物の賃貸・販売やリフォーム工事においても、省エネ性能の違いをアピールすることが増えるでしょう。
まとめ
日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標に掲げ、さまざまな対策をとっています。
「省エネ性能表示制度」も、その一つです。
これからの不動産事業において、こうした流れを無視して継続することはできなくなっています。
不動産オーナーの方は、さまざまな方面から十分に情報を集め、対策を講じていくようにしましょう。
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