不動産賃貸業を法人化する際は建物だけを法人に移すのがおすすめ!借地権認定課税についても解説
不動産賃貸業を法人化することで所得税や相続税を節税できる可能性があります。
ただし、適切な処理を実施しないと効果的な節税は望めません。
適切な処理を行うためには、借地権認定課税などの知識を保有していることが重要です。
この記事では不動産賃貸業を法人化することで節税できる理由や借地権認定課税について解説するので参考にしてください。
不動産賃貸業を法人化することで節税が可能
不動産賃貸業を法人化することで所得税や相続税を節税できる可能性があります。
具体的にはどのような節税効果が期待できるのか解説していきます。
所得税負担を軽減できるケースがある
所得税は累進課税システムに基づいており、所得が増えるほど税率も上昇します。
これに対し、法人税は原則として均一な税率で課税されるため、個人の所得税率が法人税率よりも高い場合、不動産を法人化することで税負担を軽減することが可能です。
特に、年間所得が飛びぬけて高い個人は、法人化による税率の差を利用することで、多大な節税が実現できます。
この仕組みは不動産運用にも適用できるため、不動産運用においても、法人化することで所得税が軽減できると言えるでしょう。
ただし、法人化には独自のコストや法的要件が伴うため、その決定は慎重に行うようにしてください。
参考までに、所得税の税率は以下になります。
課税される所得金額 | 所得税率 | 住民税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円まで | 5% | 10% |
0円 |
1,950,000円〜3,299,000円まで | 10% | 97,500円 | |
3,300,000円〜6,949,000円まで | 20% | 427,500円 | |
6,950,000円〜8,999,000円まで | 23% | 636,000円 | |
9,000,000円〜17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 | |
18,000,000円〜3,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 | |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
法人税率は以下の通りです。
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
H28.4.1~ | H30.4.1~ | H31.4.1~ | R4.4.1~ | ||||
普通法人 |
資本金1億円以下の法人など |
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 |
15% |
15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
どれほど軽減できるのか計算してみたい方は、上記の表を参考にしてみてください。
相続税を軽減できるケースがある
不動産賃貸業を運営している場合、家賃からの収入が定期的に入ってくることが一般的です。
この家賃収入は、相続が発生した際に相続財産の一部となり、結果として相続税の対象になります。
つまり、家賃収入を生前に次世代に移転しておくことで、将来発生する相続財産を減らし、相続税の節税につなげることが可能です。
具体的には、相続予定者が出資して新たな会社を設立し、その会社に不動産の建物部分を所有させると良いでしょう。
家賃収入が直接的に個人の手元に入るのではなく、会社の収益として計上されます。
その後、この収益を役員報酬として相続予定者に分配することで、家賃収入を個人の所得として管理することが可能です。
役員報酬として分配される収入に対しては、贈与税が課税されないため、法人化することにより、相続財産を減らすことができ、結果的に相続税の負担を軽減することが可能になります。
不動産を法人所有にする際は建物だけを法人に移すのがおすすめ
不動産を法人に移す際、特に注意すべき点は、譲渡所得に対する税金の問題です。
特に、土地は注意が必要です。
土地と建物を法人所有にする際には、それぞれの資産に対して異なる税制が適用されるので注意しなければいけません。
具体的には、取得費が不明な土地を法人に移転する場合、売却額の95%が課税対象になり、譲渡所得税が発生します。
一方で、建物だけを法人に時価(売却時の帳簿価額)で移転した場合は、譲渡側である個人においても譲渡所得税は発生しません。
また、譲受側である法人においても、受贈益課税なども発生しません。
さらに、建物だけの移転であれば登録免許税や不動産取得税を抑えることもできます。
したがって、不動産の法人化を検討する際には、土地と建物を分けて考えることが重要です。
建物だけを法人に移す際は適切な処理をしないと借地権認定課税が課せられる
不動産賃貸業を法人化し、建物だけを法人の資産として移転する際には、借地権認定課税への注意が必要です。
法人が地主である個人に対して権利金を支払わなかったり、相応の地代を支払わなかったりした場合、法人は個人から借地権の一部を贈与されたとみなされ、その分は法人税の課税対象となるリスクがあります。
したがって、建物のみを移転する際には、借地権認定課税のリスクを適切に管理するために、権利金や地代の支払いに関する法的な側面を正確に理解し、適切な手続きを踏むことが必要になります。
なお、「権利金」とは、建物を建設する目的で土地を借りる際に結ばれる「借地契約」に基づき、地主に対して支払われる金額です。
この金額は、土地の使用権を得るために地主に対して支払われるもので、その価格は土地の場所や市場価値、契約条件によって変動します。
権利金は一時的なものであり、土地の使用権を得るための初期費用として理解しましょう。
また、「地代」とは、借地契約に基づき地主に対して定期的に支払われる金額のことです。
この金額は、土地を使用するための対価として、定期的に地主に支払われます。
地代は、契約期間中継続的に発生する費用であり、土地の利用に対する長期的な対価としての性質を持っています。
借地権認定課税がされないようにする3つの方法
前述したように、建物だけを法人の資産として移転する際は、借地権認定課税に注意が必要です。
ここでは、借地権認定課税を避けるための3つの方法について紹介します。
権利金を支払う
借地権の取引が実質的に第三者間で行われるような形式を採用することにより、借地権の設定が認定されるのを防ぐ方法です。
通常、借地権の設定には市場価値に基づく権利金の支払いが伴います。
法人による土地の使用に対して権利金が支払われることは、この取引が市場原理に沿ったものと見なされ、税務当局による借地権認定の課税対象から外れる可能性が高まります。
ただし、権利金の金額が市場価値に適正であることを確認し、全ての取引が透明かつ公正であることを保証することが重要です。
権利金の額は、土地の立地、大きさ、使用目的など、多くの要素に基づいて適切に算出されなければなりません。
これが適切に行われていない場合、借地権認定の課税対象になる可能性があるので注意が必要です。
相当の地代を支払う
「相当の地代」の支払いをする方法とは、借地権の設定時に、法人から地主に「相当の地代」を支払うことにより、借地権認定課税を回避する方法です。
法人が地主に対して、市場価値に見合った、あるいはそれを上回る額の地代を支払うことで、法人と地主との間の取引が市場原理に基づいて行われていると認識される可能性が高まります。
法人による土地使用が実質的な対価に基づいていると見なされるため、税務当局がその取引を借地権の認定対象として扱う可能性は非常に低いでしょう。
ただし、この方法を採用する際には、地代の金額の設定が適切であることを確認し、すべての取引が公正で透明であることを保証することが必要です。
不当で不透明だと看做されると、課税される可能性もあるので十分に注意しましょう。
なお、相当の地代を支払う方法は、不動産法人化において土地所有者と法人間の取引が実質的な経済的価値に基づいていることを証明するために用いられます。
これにより、法人化された不動産が単なる形式的な所有権移転に留まらず、実質的な市場取引として扱われることを期待することが可能です。
土地の無償返還の届出書を提出する
「土地の無償返還に関する届出書」の提出は、不動産法人化における借地権認定課税を回避する効果的な手段の一つです。
法人が将来的に建物を解体して土地を返還する際、地主に対して金銭を要求せずに土地を無償で返還することを約束します。
この約束は、法人から地主への権利金の支払いを不要にすることと引き換えに行われます。
土地の無償返還に関する届出により、法人と地主との間での借地権設定における金銭的な取引が発生しないという状況が明確にされるため、税務当局はその取引を借地権の認定対象として扱う可能性を軽減することが可能です。
このため、土地の無償返還に関する届出書の提出は、法人が実質的な金銭的対価を支払わずに土地を使用できる、かつ借地権認定課税の適用を避けるための有効な方法といえます。
土地の無償返還の届出書の作成・提出のポイント
土地の無償返還に関する届出書の作成と提出は、借地権認定課税を回避する上で重要な手続きです。
ここでは、土地の無償返還に関する届出書の作成と提出に関するポイントを解説します。
土地の無償返還の届出書は4通作成する
土地の無償返還に関する届出書を作成する際には、合計で4通の文書を用意することが推奨されます。
同じ内容の届出書を2通税務署に提出する必要があるためです。
また、地主と借地人のためにそれぞれ控えを用意するため、合計4通の文書が必要になります。
これにより、双方が届出内容を確認し、保管することができます。
地主と借地人の連名で作成する
土地の無償返還に関する届出書は、地主と借地人の両方の同意と署名が必要です。
そのため、この文書は地主と借地人の連名で作成する必要があります。
この連名により、両者が届出内容に同意していることを明確に示すことが可能です。
地主の管轄の税務署に提出する
土地の無償返還に関する届出書の提出先は、地主の納税地を管轄する税務署です。
この税務署が届出書の適切な処理を行うため、地主が納税している管轄の税務署に提出する必要があります。
この手続きにより、地主の税務上の記録に適切に反映され、借地権の状況を正確に把握することが可能です。
遅延なく提出する
土地の無償返還に関する届出書の提出期限は、「遅滞なく」と定められています。
これは、届出書の提出を必要な手続きとして可能な限り迅速に行うことという意味です。
適切なタイミングで届出書を提出することは、課税当局に対して土地の使用権に関する変更を迅速かつ正確に報告し、借地権の認定を回避する上で重要になります。
土地を無償返還するという内容を賃貸借契約書に記載する
無償返還に関する届出において、賃貸借契約書に「土地を無償で返還する」という旨を明記することが重要です。
賃貸借契約の一環としてこの内容を含めることで、契約の性質を明確にし、税務上の誤解を避けることができます。
届出書と一緒に賃貸借契約書も提出することにより、土地の使用権に関する全体的な合意が適切に文書化され、税務当局に対する報告が完了します。
地代を無償にしない
届出書の適用においては、地代を無償にしないことも重要なポイントです。
地代が無償、または非常に低額である場合、税務当局によって使用貸借契約とみなされるリスクがあります。
一方、地代を市場価値に適切に設定することで、法人による土地の使用が実質的な対価に基づいていると認識され、借地権認定課税の回避に繋げることが可能です。
権利金の認定課税については仮に無償であっても避けることは可能ですが、地代の設定に関しては慎重な検討が必要になります。
まとめ
不動産賃貸業を法人化する際は、建物だけを法人に移すことを推奨します。
建物だけを法人に移すことで効率的な所得税や相続税の節税が可能になります。
ただし、借地権認定課税について理解しておかないと想定よりも節税ができないという事態になりかねません。
効果的な節税を行うためにも借地権認定課税の基礎知識や課税されない方法を理解しておくことが重要です。
本記事では、不動産賃貸業を法人化することで節税できる理由や借地権認定課税について解説しました。
賃貸経営をしていて節税を考えている方は本記事を参考にしてみてください。
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