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資産活用、賃貸管理、大規模修繕のダイニチ

不動産オーナーさま向けコラム

修繕履歴と長期修繕計画の整理が経営にもたらす効果

2025.08.01

賃貸不動産経営において、建物の修繕やメンテナンスは避けて通れない課題です。

 

築年数の経過とともに老朽化が進み、突発的な修繕費が収支を圧迫するケースも少なくありません。

 

こうしたリスクを回避するには、「修繕履歴の整理」と「長期修繕計画の策定・管理」が重要な鍵を握ります。

 

本記事では、賃貸経営においてこれらの取り組みがなぜ必要なのか、どのように実行すべきか、そして経営面にどのような効果をもたらすのかを詳しく解説します。

修繕履歴と長期修繕計画とは

修繕履歴と長期修繕計画を解説する前に、それぞれの定義と基本的な役割について正しく理解しておくことが重要です。

修繕履歴とは何か

修繕履歴とは、過去に実施した修繕・改修・メンテナンスの記録を体系的にまとめたものです。

 

具体的には、修繕を実施した年月日、内容、施工業者、費用、箇所などを時系列で整理し、いつ・どこに・何を行ったかがひと目で分かるようにします。

 

さらに、工事の規模や使用した資材の種類、修繕に至った背景や不具合の詳細なども記録に加えることで、より精緻な管理が可能です。

 

こうした履歴が整備されていることで、将来的な修繕計画の立案や見積もりの際にも過去データを活用でき、合理的な判断が下せるようになります。

 

また、入居者や管理会社との情報共有にも役立ち、透明性の高い物件運営を実現する上でも重要な資料となります。

長期修繕計画の基本

長期修繕計画は、建物のライフサイクルに沿って修繕や更新の時期・内容・費用を予測し、あらかじめスケジュール化するものです。

 

たとえば、屋上防水は15年ごと、給排水管は20年ごとの更新を見込むなど、将来に発生する修繕を事前に織り込んでおくことがポイントです。

 

これにより、突発的な大規模支出を抑制し、資金準備を計画的に行えます。

 

さらに、長期修繕計画には修繕対象ごとの優先順位付けや、設備の耐用年数に基づいた更新の推奨時期の明記も含めると、実効性が一段と高まります。

 

複数の修繕が同時期に重なった場合でも、影響度や劣化度合いに応じた判断が可能になります。

 

長期修繕計画は、単なる一覧表ではなく、経営計画の一部として定期的に見直されるべき重要なドキュメントです。

修繕履歴の整理がもたらす経営効果

日常的な修繕対応を記録として蓄積しておくことで、賃貸経営のさまざまな場面で役立ちます。

 

ここでは、具体的な経営面でのメリットを解説します。

突発的な支出リスクの低減

修繕履歴が整理されていることで、建物の劣化傾向を把握しやすくなります。

 

たとえば、同じ箇所に繰り返し修理が必要になっている場合には、根本的な改修を検討するきっかけにもなります。

 

設備ごとの故障履歴が把握できれば、メンテナンスの優先順位もつけやすくなり、限られた予算の中でも効率的な投資が可能です。

 

また、履歴をもとにした修繕計画の精度が増せば、突発的な大規模修繕や緊急対応の発生頻度を抑えることができ、安定した物件運営に貢献します。

原状回復トラブルの防止

入居者退去時の原状回復において、どこまでが入居者負担でどこまでがオーナー負担なのか、曖昧なままだとトラブルのもとになります。

 

特に、壁紙の汚れや設備の破損が経年劣化によるものか、入居者の使用方法や過失によるものかを判断するには、根拠となる客観的な資料が欠かせません。

 

修繕履歴があれば「いつ・誰が・何の目的で修繕を行ったのか」が明確になり、責任の所在が判断しやすくなります。

 

また、退去後の修繕費用をめぐる紛争が防げることで、オーナー側の精神的負担も軽減されます。

 

その結果、円滑な退去手続きだけでなく、入居者との信頼関係の維持にも効果的です。

税務処理・資産評価の精度向上

修繕費用が資本的支出に該当するのか、損金処理が可能なものかを判断する際、履歴の有無が大きな判断材料となります。

 

たとえば、同じ設備に対して何度も修繕が施されている場合、根本的な改修や交換が行われているとみなされ、資本的支出として扱われる可能性が高くなります。

 

税務調査時にも、詳細な修繕記録を提示できれば、正確な処理を証明しやすいです。

 

また、修繕内容を整理することで、帳簿と実態の整合性が取りやすくなり、帳簿の信頼性向上にもつながります。

 

さらに、物件の資産評価においても、計画的なメンテナンス履歴が評価にプラスに働く可能性があります。

長期修繕計画の実施がもたらす経営メリット

将来を見据えて修繕を計画的に進めることで、経営の安定性や収益性が大きく向上します。

 

ここではその具体的な効果を紹介します。

資金計画の見通しが立てやすくなる

長期的な視点で修繕スケジュールと費用を見積もることで、必要な資金を事前に準備できます。

 

突発的な出費が減るだけでなく、金融機関からの借入や修繕積立金の計画にも良い影響を与えるでしょう。

 

結果として、資金繰りが安定し、経営全体のブレを抑えることにつながります。

物件価値の維持・向上が図れる

適切なタイミングでの修繕やリニューアルは、物件の外観や機能面の魅力を保つうえで不可欠です。

 

老朽化が目立てばイメージダウンにより入居希望者が減り、賃料も下がりかねません。

 

定期的な手入れを行うことで空室リスクを減らし、結果として物件の収益力も維持されます。

金融機関からの信頼性向上

長期修繕計画を整備していることで、金融機関はオーナーの経営管理能力を高く評価します。

 

特に融資を受ける際には、将来の修繕費用の予測や対応方針を提示することが求められる場面もあるため、計画の有無が重要な判断材料となります。

 

きちんとした計画を提示できれば、金利の優遇や借入限度額の増加といった好条件につながるケースも多いです。

修繕管理の情報開示が入居者満足度に与える影響

 

物件の設備状況や修繕履歴に関心を持つ入居者が増えています。

 

ここでは、修繕情報を開示することによる信頼感や安心感の向上について解説します。

情報公開による透明性の確保

修繕履歴や点検情報を共有することで、入居者にとって物件選びの安心材料となります。

 

特に築年数の古い物件では、きちんと手入れされているかが入居判断に影響することも多いです。

 

必要に応じて共用部の更新履歴や修繕計画を案内することが、信頼関係構築の一助になります。

 

こうした情報提供は、他の物件との差別化にもつながり、入居者の満足度を高める要因ともなります。

安心感が入居率の向上につながる

清潔で安全な住環境を求める入居者にとって、オーナーのメンテナンス姿勢は大きな判断基準となります。

 

入居前に「この物件はどれくらい管理が行き届いているのか」「設備に不具合があった場合、迅速に対応してもらえるのか」といった不安を持つ人も少なくありません。

 

そのため、修繕履歴や計画を開示している物件は、安心して長く住めそうという印象を与えやすくなります。

 

また、予めそうした情報を提供することで、入居者に安心や信頼感を与えることができ、入居後のクレームや不満の予防にもつながります。

修繕履歴と計画を整理・管理する方法

修繕履歴と修繕計画は作成して終わりではなく、継続的に管理し、見直しや更新することが必要です。

 

ここでは、具体的な整理・管理の方法について解説します。

Excelや専用ソフトによる記録管理

手軽な方法はExcelを使った一覧表の作成です。

 

物件ごとに修繕年月日、場所、内容、費用を記載しておきます。

 

さらに、施工業者名や修繕理由、修繕後の状態に関する簡単なコメント欄を設けることで、より実用的な記録になります。

 

棟数が増えてくると情報管理が煩雑になるため、Excelだけでは限界があるケースも少なくありません。

 

そのため、不動産管理ソフトやクラウドサービスの導入も検討するとよいでしょう。

 

これらのツールでは、複数の関係者がリアルタイムで情報を共有できる機能や、修繕履歴の検索・集計・アラート通知などの機能が備わっており、管理業務の効率化に大きく貢献します。

 

特に中長期の修繕計画と連携できるソフトであれば、記録と計画を一体で運用することも可能となります。

写真・書類のデジタル保存

修繕の前後で撮影した写真や、見積書・請求書などの関連書類も重要な資料です。

 

これらの書類は単なる記録にとどまらず、入居者とのトラブル防止や税務申告時の根拠資料としても活用できます。

 

これらをスキャンし、フォルダごとに整理して保存しておくことで、後からの確認や証拠としての提示が容易になります。

 

これらのデータはクラウド保存しておくことで、災害時のリスクも回避可能です。

 

Google Driveなどのクラウドストレージを活用することで、複数の関係者とリアルタイムで共有できる環境も整います。

定期点検の導入と履歴への反映

修繕の必要性を見極めるには、定期点検の実施が欠かせません。

 

年1~2回の点検結果を履歴に追加することで、次の修繕計画にも反映しやすくなります。

 

点検の実施により、見落としがちな劣化や故障の兆候を早期に発見することができ、結果として修繕コストの削減にもつながります。

 

さらに、点検時にはチェックリストを用いることで、設備や場所ごとの確認漏れを防ぎ、精度の高い点検になるでしょう。

 

点検後には、写真やコメント付きの報告書を作成し、それらの記録をデジタル化して修繕履歴に紐づけておくことが重要です。

成功事例に見る活用のヒント

ここでは、実際に修繕履歴と長期修繕計画を活用しているオーナーの事例をもとに、実務への応用のヒントを探っていきましょう。

 

記録と計画があることで、状況に応じた判断がスムーズにできるようになり、的確な判断がしやすくなります。

修繕履歴で退去時トラブルを回避

あるオーナーは、入居時から定期的に実施した修繕の内容を、写真付きで記録に残していました。

 

修繕の目的や施工業者、費用なども一覧化し、紙だけでなくクラウド上でも管理していたため、必要な情報をすぐに取り出せる状態を整えていたのです。

 

退去時に入居者から「このキズは入居前からあった」と主張された際、該当箇所の入居前後の写真を提示し、客観的な証拠をもって説明できました。

 

結果として原状回復費用に対する納得を得やすく、トラブルに発展することなくスムーズに解決できたとのことです。

 

こうした記録の蓄積が、オーナーと入居者双方にとって安心感を生む土台となっています。

長期修繕計画に基づく設備更新で稼働率アップ

築25年の物件のオーナーは、長期修繕計画に従いエントランスや共用部の照明をLED化・防犯カメラの設置を行いました。

 

さらに、自転車置き場の整備や宅配ボックスの新設も計画的に実施され、入居者の利便性向上を図る工事も実施しました。

 

修繕後は設備の魅力が高まり、他物件との差別化にもつながった結果、入居希望者からの問い合わせも増加する効果がありました。

 

実際に見学した人の多くから、共用部分の充実度や安心感について高い評価を得られています。

計画的な外壁改修で資産価値を維持

築30年超のアパートで、外壁の劣化が進行していたことに対し、長期修繕計画に基づいて早期に外壁塗装と補修工事を実施したオーナーの例です。

 

施工後は見た目の印象が大きく改善され、入居希望者からの問い合わせが増加し、近隣相場よりも高めの賃料設定が可能となり、収益性の向上にもつながりました。

 

加えて、資産価値が安定したことで、将来的な売却時にも有利に働く見込みとなり、物件の長期的な運用にも好影響を与えています。

今後求められる管理者の意識と体制

不動産経営における修繕管理は、「問題の発生後に対処する」という考え方から、予防的・計画的な管理への転換が求められています。

 

これからは、資産価値を守るという視点で、より計画的かつ協働的な体制づくりが不可欠となるでしょう。

「直す」から「備える」へ

修繕は単なる対処療法ではなく、資産価値を維持・向上させるための投資としてとらえることが重要です。

 

これまでは設備に不具合が生じてから対応するケースが一般的でしたが、今後は予兆をとらえて事前に手を打つ「予防保全」が求められます。

 

たとえば、定期点検で軽微なヒビ割れや水漏れの初期症状を確認した時点で修繕を実施することで、結果的に大規模修繕を回避できる場合もあります。

 

こうした姿勢は、入居者に対して「この物件はきちんと管理されている」という安心感を与え、満足度の向上にもつながります。

オーナーと管理会社の役割分担を明確にする

管理業務のすべてを管理会社に一任するのではなく、オーナー自身も一定の関与を持つことが、トラブルの未然防止や判断の的確さに直結します。

 

たとえば、「年間100万円までの修繕は管理会社判断で実施する」「長期修繕計画の策定・見直しは年1回、オーナー確認のうえで更新する」といった具体的なルールを設定することも重要です。

 

特に複数棟の物件を所有している場合や、管理会社を変更する際には、修繕履歴と計画の引継ぎが円滑に行えるよう、情報をクラウド上に集約し、関係者間で共有できる仕組みを構築しておくことが望ましいでしょう。

まとめ

修繕履歴と長期修繕計画は、賃貸不動産経営における守りの資産管理の要です。

 

突発的な出費を抑えるだけでなく、物件の資産価値を中長期的に維持・向上させるためには、過去のデータの蓄積と将来への備えが不可欠です。

 

こうした取り組みは、日々の管理業務の効率化や、金融機関・入居者からの信頼性向上にも大きく貢献します。

 

まずは1棟からでも、そして小さな記録から始めてみることをおすすめします。

 

今日からでもできる一歩を踏み出し、安定した賃貸経営の土台を築いていきましょう。

この記事を書いた人

DAINICHI 編集部 不動産チーム

DAINICHI 編集部 不動産チームは社内外の有識者により構成されています。不動産の投資、管理、運用、リノベーション、売却、有効活用などの方法について、様々な視点から不動産に関する有益な情報をお伝えします。

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