エレベーターの保守点検とリニューアルのタイミング
賃貸物件のエレベーターは居住者が日常的に利用するものなので、安全性を確保するために定期的な保守点検が必要です。
老朽化したエレベーターのリニューアルはコストがかかりますが、長期的に見れば資産価値の維持や入居率の向上につながります。
本記事では、エレベーターの保守点検や法定点検の重要性、点検内容、リニューアルの適切なタイミングや費用について詳しく解説します。
エレベーターの保守点検の重要性
エレベーターは建物の快適性を支える重要な設備です。
そのため、安全性の確保や法的義務を果たすために、適切な保守点検が求められます。
エレベーターの安全性確保
エレベーターは建物の動線を担う重要な設備であり、定期的なメンテナンスが不可欠です。
機械的な故障や制御装置の不具合は人命にかかわるリスクを伴うため、予防対策や早期発見が必要です。
法律で定められた点検を怠ると罰則が科せられたり、最悪の場合エレベーターの使用停止措置が発生したりする可能性があります。
定期点検の法的義務
エレベーターの保守点検は、法律で義務付けられており、「建築基準法」と「労働安全衛生法」に基づいて定期的な検査と報告を行う必要があります。
「建築基準法」では、年に1回の定期検査を行い、その結果を特定行政庁へ報告することが義務付けられています。
「労働安全衛生法」では、6カ月ごとの自主点検が求められ、設備の異常がないか確認することが必要です。
これらの点検を怠ると、行政処分や罰則が科せられる可能性があるだけでなく、事故が発生した際にはオーナーの管理責任が問われ、損害賠償のリスクも生じます。
安全性の確保と法的リスク回避のためにも、定期点検を確実に実施することが重要です。
エレベーターの保守契約の種類
エレベーターのメンテナンス契約には、「フルメンテナンス契約(FM契約)」と「POG契約(パーツ・オイル・グリス契約)」の2種類があります。
フルメンテナンス契約は、定期点検に加え故障時の修理費用も含まれる契約であり、突発的な修理費用の負担が軽減されるため、予算管理がしやすく、長期的なコスト安定化につながります。
また、交換部品の費用も含まれるケースが多いため、オーナーにとっては予測しやすいメンテナンスプランです。
一方で、月額の契約費用は高めに設定されているため、コスト面での負担が生じる可能性があります。
POG契約は、点検や消耗品の交換は契約内で対応しますが、故障時の修理費用は別途発生する契約であり、月額コストは抑えられますが、突然の修理費負担が発生する可能性があるため、計画的な資金準備が必要となります。
また、交換部品の費用がオーナー負担となるため、老朽化したエレベーターでは予想以上のコストが発生することも考えられます。
エレベーターの年式や使用頻度によって適切な契約を選ぶことが重要です。
新しいエレベーターではPOG契約でコストを抑えるのも一案ですが、耐用年数が近づいている場合は、フルメンテナンス契約で長期的な安心を確保することも検討すべきです。
尚、保守会社によっては、一度POG契約を締結すると、フルメンテナンス契約への切替ができないこともある為、注意が必要になります。
エレベーターの点検内容とチェックポイント
定期点検では、エレベーターの各部位の機能を確認し、異常がないかをチェックします。
ここではエレベーターの定期点検でどのような点を見ているのか、具体的に解説します。
定期点検でチェックされる項目
エレベーターの定期点検では、機械・電気・安全装置などの各要素を詳細に確認し、安全な運行を維持しています。
●機械系統
大きな事故や故障のリスクを低減するために大切なチェック項目として、ワイヤーロープの摩耗や巻き上げ機の劣化を点検し、異常がないかを調べます。
●電気系統
制御盤の状態や電源供給の安定性をチェックし、異常がないかを確認します。
特に、電気的な不具合は突然の停止につながる可能性があるため、十分な点検が必要です。
●安全装置の作動テスト
非常停止機能や地震時の作動確認を行い、異常時にエレベーターが適切に作動するかを検証します。
万が一の際に安全装置が正常に働くかどうかを確認することは、入居者の安全確保に欠かせません。
●かご内設備
操作ボタンやインターホン、表示パネルが正しく動作するかをチェックします。
これらの設備に不具合があると、入居者がエレベーターを安心して利用できなくなるため、細かい部分まで確認することが大切です。
●ドア
センサーや開閉速度が適切であるかを検査し、スムーズに開閉するかを確認します。
ドアの誤作動は挟まれ事故の原因となるため、入念なチェックが必要です。
これらの点検を定期的に実施することで、エレベーターの安全性と快適性を維持し、入居者の安心感を高めることができます。
異常を見つけたときの対処法
エレベーターから異音がしたり、異常な振動を感じたりした場合は、すぐに専門業者に相談することが重要です。
「エレベーターが動かない」「ドアが閉まらない」などの異常は、入居者の不満につながるため、迅速な対応が求められます。
具体的な対処法としては、以下の点に留意しましょう。
●異音や振動の確認
通常とは異なる音や振動を感じたら、速やかに記録し、点検業者に報告する。
●エレベーターが停止した場合
入居者が閉じ込められている可能性があるため、非常ボタンを押して救助を要請し、業者へ連絡する。
●ドアの開閉不良
センサーや開閉メカニズムの不具合が考えられるため、手動での開閉を試みず、専門業者の指示を待つ。
点検業者と緊急時の対応フローを決めておき、万が一の際に迅速な対応ができるようにしておくと安心です。
エレベーターのリニューアルの適切なタイミング
エレベーターは長期にわたって使用される設備ですが、一定の期間を過ぎると老朽化が進みます。
故障の増加や安全性の低下を防ぐためにも、適切なタイミングでリニューアルを検討することが重要です。
エレベーターの耐用年数と老朽化の兆候
エレベーターの耐用年数は一般的に20~25年とされていますが、使用頻度が高い建物では15年程度でリニューアルを検討することもあります。
老朽化が進むと、故障が頻発し修理コストが増加するだけでなく、安全性にも影響を及ぼすため適切な判断が必要です。
老朽化の兆候には、以下のような症状があります。
● 故障が増える: 突発的な停止や動作不良が頻発する。
● 部品交換の頻度が高まる: 維持管理にかかるコストが増加する。
● 昇降速度が遅くなる: 経年劣化により動作が鈍くなることがある。
● 操作パネルの不具合が発生する: ボタンが反応しない、表示が消えるなどの問題が発生する。
● 異音や異常振動が発生する: モーターや駆動部の劣化によって、通常とは異なる音や振動が感じられる。
これらの兆候が現れた場合、修理対応の限界を見極めながら、リニューアルのタイミングを検討しましょう。
リニューアルの必要性とメリット
老朽化したエレベーターをそのまま使用し続けると突発的な故障が増加し、修理コストがかさむ可能性があります。
特に、長年使用された設備は部品の摩耗が進み、予期せぬトラブルが発生しやすくなるため計画的なリニューアルが必要です。
最新のエレベーターに更新することで安全性や省エネ性能が向上し、入居者の安心感を高められます。
また、エネルギー効率の向上によりランニングコストを削減できるため、長期的なコストパフォーマンスも向上します。
さらに、リニューアルによってデザイン性や操作性が向上し、建物全体の価値を引き上げる効果も期待できるため、競争力向上の観点でも賃貸市場における競争力を維持できるでしょう。
部分的な改修と全面リニューアルのどちらが良いのか
エレベーターのリニューアルを検討する際、部分的な改修を行うか、全面リニューアルを実施するかは大きな判断ポイントとなります。
どちらの選択肢が最適かは、エレベーターの状態や予算、運用コストのバランスを考慮することが重要です。
●部分的な改修
部分的な改修では、エレベーターの特定の部品や機能を更新することで、比較的低コストで性能を改善できます。
例えば、モーターや制御盤を交換することで、動作の安定性や安全性を向上させることが可能です。
また、かご内のインテリアや操作パネルの交換を行うことで、利用者の快適性や美観を向上させることもできます。
ただし、老朽化が進んでいる場合、部分的な改修では根本的な問題を解決できないこともあるため、長期的な維持コストも考慮する必要があります。
●全面リニューアル
一方、全面リニューアルでは、エレベーター全体を新しいものに入れ替えます。
初期費用は高額になりますが、新技術を取り入れた最新設備にすることで運用コストの削減や省エネ性能の向上が期待できます。
また、安全基準を最新のものに対応させることができ、入居者の安心感や建物全体の資産価値向上にも有効です。
どちらを選択するかは、エレベーターの現状や今後の維持計画によって異なります。
短期的なコストを抑えつつ一定の改善を図る場合は部分的な改修が適していますが、長期的な視点で設備の安定性と資産価値を向上させたい場合は全面リニューアルを検討するとよいでしょう。
エレベーターリニューアルの費用と資金計画
エレベーターのリニューアルには高額なコストがかかるため、事前の資金計画が欠かせません。
適切な予算管理を行い、補助金やリース契約などの活用も視野に入れることで、費用負担を軽減できます。
リニューアルの費用相場
エレベーターのリニューアルには、大きく分けて「部分改修」と「全面リニューアル」の2種類があります。
部分改修は、老朽化した部品の交換を行い、エレベーターの機能を維持する方法で、交換対象となるのは、モーターや制御盤、ワイヤーロープなどの主要部品であり、費用は300万~800万円程度が相場です。
この方法では、故障のリスクを減らしながら運用を継続できますが、本体そのものの劣化は防げないため、将来的にはさらなる修繕が必要となる可能性があります。
一方で、全面リニューアルはエレベーター本体を丸ごと新しくするため、設備の安全性や省エネ性能が大幅に向上します。
しかし、費用は1,500万~3,000万円と高額になり、建物の構造やエレベーターの種類によって変動する可能性が高く、特に大型のエレベーターや高層建築に設置されているものは、施工費用がさらに高くなる傾向があります。
リニューアルの際には、撤去費用や建物改修費用も発生することを考慮することが必要です。
古いエレベーターを撤去する際には、クレーンを使用した搬出が必要になる場合もあり、工事の規模によって追加費用がかかることもあります。
これらのコストを踏まえて、どの程度のリニューアルを行うのか慎重に検討することが大切です。
リニューアル費用を抑える方法
エレベーターのリニューアル費用を抑える最も効果的な方法として、補助金や助成金の活用、リース契約の導入、複数業者からの見積もり取得の3つが挙げられます。
●補助金・助成金の活用
まず、国や自治体が提供する補助金・助成金制度を活用することで、リニューアル費用の一部を軽減することが可能です。
特に、省エネ機能を備えたエレベーターへの更新は、エネルギー効率向上の観点から補助対象となることが多く、制度を適用できるか事前に確認することが重要です。
助成金の申請には一定の条件を満たす必要があるため、事前に専門家や施工業者と相談し、利用可能な補助金制度を把握しておくとよいでしょう。
●リース契約の導入
次に、リース契約の導入によって、初期投資を抑える方法も有効です。
エレベーターの全面リニューアルは高額ですが、リース契約を利用すれば費用を分割払いにできるため、オーナーの資金負担を軽減できます。
さらに、リース契約にはメンテナンス費用が含まれるケースが多く、突発的な修繕費用を抑えつつ、計画的な資金運用が可能になります。
ただし、リース期間や契約内容によっては、総支払額が割高になる場合もあるため、長期的なコスト計算を行うことが重要です。
●複数業者からの見積もり取得
また、複数の業者から見積もりを取得し、コスト比較を行うことも欠かせません。
メーカーや施工業者によって価格やサービス内容が異なるため、単に費用が安い業者を選ぶのではなく、提供されるメンテナンスプランや保証内容を比較検討することが大切です。
特に、老朽化したエレベーターの場合、追加工事が必要になることもあるため、見積もりの詳細をしっかり確認し、想定外の費用が発生しないように注意しましょう。
エレベーターのリニューアルは、高額な投資ですが、適切な資金計画を立てることでコスト負担を最小限に抑えることができます。
補助金やリース契約の活用、複数業者との比較を行い、最も効率的な方法でリニューアルを進めることが重要です。
まとめ
エレベーターは賃貸物件において重要な設備であり、安全性を維持するためには定期的な保守点検が不可欠です。
法的にも定期点検が義務付けられています。
老朽化が進むと故障のリスクが増し、修理コストも膨らむため、適切なタイミングでリニューアルや部分改修を検討する必要があります。
リニューアルには大きな費用がかかりますが、オーナーはエレベーターの維持管理を長期的な視点で考え、入居者の快適性と安全性を確保することが重要です。
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