賃貸経営は法人化したほうがお得?目安となる年収も解説
賃貸経営をしている方の中には、法人化することを悩んでいる方が少なくありません。
法人化がすることで、税金が安くなるケースがあるためです。
しかし、法人化するタイミングを間違えてしまうと、法人化したほうが、税金が高くなる場合もあるため、「今すぐ法人化してもよいものか」という不安を抱えている方は多いです。
そこで、本記事では、法人化のメリット・デメリットや法人化するべき年収の目安などを解説していきます。
賃貸経営の法人化を検討している方は、参考にしてください。
賃貸経営を法人化した方が得かどうかは状況を見極める必要がある
賃貸経営を法人化した方が得かどうかは、年収や経営している不動産の数など、さまざまな要因で決まります。
安易に法人化してしまうと、「法人化しなければよかった」と後悔する事態にもなりかねないため、慎重に状況を見極めることが重要です。
仮に、ご自身で見極められるのか不安な方は、税理士に相談するようにしましょう。
賃貸経営で法人化するメリット
所得によっては節税効果が高い
不動産所得が高額な場合は、個人よりも法人のほうが所得に対する税率が低くなります。
法人化した場合は、所得税でなく法人税が適用され、税率が異なるためです。
では、所得税と法人税の税率を比較してみましょう。
法人税の税率は以下の表で確認できます。
課税所得税額 | 税率(開始事業年度 2019年4月1日以降) |
---|---|
800万円以下 | 15% |
19%(適用除外事業者) | |
800万円超え | 23.20% |
※適用除外事業者とは、事業年度開始日の前3年以内に終了した各事業年度の所得金額が年平均額15億円超である法人
なお、法人の場合は、法人税以外にも「法人住民税・地方法人税・法人事業税」が課税されます。
上記の法人に課せられる事業者所得に対する税金の負担率である「実効税率」は29.74%(2022年1月現在)です。
一方で、個人の場合は所得税が課税され、税率は以下のように所得によって異なります。
課税所得税額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円以下 | 5% | 0円 |
195万~329万9,000円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万~694万9,000円以下 | 20% | 42万7,500円 |
650万~899万9,000円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万~1,799万9,000円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万~3,999万9,000円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
したがって、所得が低いうちは法人税の税率の方が高くなりますが、所得が上がっていくと個人の所得税の方が高くなっていきます。
具体的には、法人の実効税率は「29.74%」であるため、個人の課税所得が900万円を超えてくると、節税が可能です。
ただし、控除や経費など様々な条件によって節税になるタイミングが違うため、900万円というラインが必ずしも法人化の目安とは言えないことも覚えておきましょう。
経費計上できる項目が多い
法人化することで、個人で賃貸経営をしている場合よりも経費計上できる範囲が増えます。
例えば、「保険料・個人年金」や「役員報酬」、「退職金」などです。
個人の場合、保険料は個人年金や生命保険を合算した「12万円」までしか経費として計上できません。
しかも、介護医療保険や個人年金も「4万円」までしか控除できないと決められています。
一方で、法人の場合は、法人で加入して支払った保険料の50%を経費として計上することが可能です。
さらに、家族を社員や役員にした場合は、「役員報酬・退職金」といった項目も経費計上することができます。
このように、税率が違うこともさることながら、課税所得事態を下げることが可能なのも、大きなメリットです。
損失を最大10年間繰越できる
法人化していれば、1年間の事業活動において損失を出した場合、その損失を「最大10年間」繰り越すことができます。
事業活動で出た損失を繰り越すことで、翌年以降の黒字と相殺することができるので、課税所得を減少させて、法人税を抑えることが可能です。
もちろん、個人事業の場合でも欠損金の繰り越し控除は利用できますが、繰り越し期間が「3年」と法人よりも期間が短くなっています。
このため、欠損金の繰り越し控除の期間が長いことも、法人化するひとつのメリットです。
不動産を短期売却する場合は法人のほうが個人よりも税率が低い
不動産を短期間で売却した場合、譲渡所得に課税される金額は、個人よりも法人の方が低くなります。
具体的には、法人の場合は譲渡所得に課税される税率は実効税率の「29.74%」です。
一方で、個人の場合は、所有期間が5年以下の状態で土地や建物を売却したときの所得は「短期譲渡所得」になるため、課税される税金の税率は「所得税30.63%・住民税9%」の合計である「39.63%」で課税されます。
上記のように、5年以内に不動産を売却する場合は、個人よりも法人化したほうが、課税される税金の税率が低くなるので覚えておきましょう。
相続税がかからない
法人化して妻や子どもなどの相続人を役員に就任させた場合、収益用不動産から出る収益の一部を相続人に役員報酬として渡すことができます。
したがって、将来的に相続するはずであった相続財産を事前に相続人へ渡すことが可能です。
ただし、役員報酬は税務上給与所得にあたるため、「所得税・住民税」が課税されることも覚えておきましょう。
課税させる税率によっては相続税対策とはならないため、相続税対策として法人化を検討する場合は、法人化せずに相続する場合と比較計算をすることが重要です。
賃貸経営で法人化するデメリット
賃貸経営を法人化すると、メリットだけでなく、当然デメリットもあります。
デメリットをよく理解しておかないと、法人化して後悔したといった事態に陥りかねません。
以下で解説している法人化のデメリットを参考に、法人化が最適なのかを検討してください。
赤字でも法人住民税を支払う必要
法人が支払わなければならない法人住民税は、「法人税割」と「均等割」で構成されています。
法人税割は、法人が法人税額を基準にして都道府県などに支払う税金で、赤字の法人は支払う必要がありません。
一方で、均等割は法人であれば等しく支払う必要がある税金で、法人の規模によって納税額が決まっており、赤字でも支払う必要があります。
例えば、東京都23区内にある事業所の場合、資本金1,000万円以下で従業員数が50人以下であるなら、納税する金額は「7万円」です。
このように、法人の場合は支払う必要の無い赤字の場合でも、税金を納める必要があるため、注意する必要があります。
不動産を長期保有で売却する場合は法人のほうが個人よりも税率が高い
法人化して不動産を長期保有で売却した場合、譲渡所得に課税される金額は個人よりも高額です。
前述したように法人の場合は、譲渡所得に課税される税率は実効税率の「29.74%」になります。
一方で、個人の場合は所有期間が5年以上の土地や建物を売却したときの所得は「長期譲渡所得」になるため、課税される税金の税率は「所得税15.315%・住民税5%」の合計である「20.315%」です。
上記のように、5年以上不動産を保有してから売却する場合は、個人よりも法人化したほうが、課税される税金の税率が高くなることも覚えておきましょう。
ランニングコストがかかる
法人化すると、個人の時よりも確定申告などの税務関係の処理が複雑であるため、個人では対応できない可能性が高いです。
税務のプロである税理士に依頼する必要が出てくるため、顧問契約料などのランニングコストがかかります。
また、社会保険料や株式会社を設立した場合は、任期満了を迎える役員の登記費用も必要です。
このように、法人化すると個人の場合では必要なかったランニングコストがかかることもデメリットとして挙げられます。
青色申告ができない
賃貸経営を法人化すると、個人で確定申告を行っていた際に利用できた「青色申告」ができなくなります。
青色申告は不動産所得や事業所得などがある個人が利用できる制度で、不動産所得や事業所得がある方が要件を満たすことで、「最大65万円」までの青色申告控除を受けることが可能な制度です。
当然、法人化すると青色申告控除を受けることができなくなります。
ただし、青色申告控除を受けられないかわりに、「給与所得控除」を受けることが可能です。
所得によっては青色申告控除よりも給与所得控除のほうが、控除額が大きいので、大きなデメリットとは言えません。
設立費用がかかる
法人化する場合は、会社を設立するための費用がかかります。
例えば、株式会社なら「20~30万円程度」、合同会社なら「6~10万円程度」の費用が必要です。
法人化しなければ必要なかった費用であるため、法人化する際のデメリットと言えます。
法人化する目安年収
賃貸経営の法人化の手順
賃貸経営で法人化するための手順は以下になります。
1.会社名など会社の基本事項を決定する
2.書類を準備する
3.定款を作成し公証役場で定款の認証を受ける
4.資本金を支払う
5.登記申請する
6.市町村の役所に書類を提出する
上記の手順を詳しく説明していくので、法人化を検討している方は参考にしてください。
会社名など会社の基本事項を決定する
まずは、会社名などの会社の基本事項を決めていきます。
具体的には、以下のような内容です。
・株式会社や合同会社などの会社形態
・会社名
・住所
・事業目的
・役員構成
・資本金
上記が決まったら、登記に必要な代表者の印鑑や社名印などを作成しておきましょう。
早い段階で作成しておくことで、会社設立の手続きがスムーズになります。
書類を準備する
会社を設立するための書類を準備することが必要です。
設立に必要な書類は以下になります。
1. 発起人、取締役の印鑑証明書(発行後3ヵ月以内)
2. 代表者印
3. 定款
4. 払込証明書・通帳のコピー
5. 発起人の決定書
6. 代表取締役、取締役、監査役の就任承諾書
7. 印鑑届出書
8. 印鑑カード交付申請書
上記のように、多数の書類が必要になり、手続きも複雑であるため、不備などが不安な方は、費用がかかりますが司法書士に依頼することも検討するようにしてください。
定款を作成し公証役場で定款の認証を受ける
定款とは、会社設立時に発起人全員の同意をもとに、定める企業の根本的な原則が記載された書類のことです。
前述で決めた基本事項に加えて、さまざまな規則を記載します。
株式会社を設立する場合は、作成した定款を公証役場に提出し、認証を受けなければなりません。
一方で、合同会社や合資会社、合名会社などは定款の認証手続きは必要ありません。
なお、定款の認証を受けるためには、認証手数料の「5万円」と収入印紙代の「4万円」が必要です。
資本金を支払う
定款の認証後、資本金を支払います。
まだ、法人口座が開設されていないため、基本的には代表者の個人口座に資本金を準備するのが一般的です。
法人口座が開設されれば資本金を振り込み、払込証明書を作成してもらいます。
登記申請する
会社がある所在地を管轄している法務局で、登記申請を行います。
設立登記申請書と必要な書類一式を提出することで、登記が完了です。
なお、自分で登記を行う場合は、事前に法務局の相談コーナーを利用すると、アドバイスや書類の不備を確認してくれるため、スムーズに手続きを行うことが可能です。
市町村の役所に書類を提出する
登記申請後、2ヶ月以内に管轄の税務署や市区町村に法人設立届書を提出しなければなりません。
なお、上記の期間は市区町村によって異なるため注意が必要です。
法人化する際のポイント
賃貸経営で法人化する際は、以下のポイントを押さえておくことで、法人化に失敗して後悔することを防げます。
以下で解説する内容をよく理解したうえで、参考にするようにしましょう。
法人化を司法書士に依頼する
法人化をする手続きは、多数の書類が必要なうえに複雑なため、手間と時間がかかります。
時間をかけたくない場合は、専門家である司法書士に依頼しましょう。
なお、司法書士に会社設立の手続きを依頼する場合は、10万円程度の費用が相場です。
税理士などに相談する
法人化する際は、法人化するタイミングは個人で見極めるのが非常に難しいため、税理士に相談することをおすすめします。
専門家である税理士に相談した上で、法人化したほうが総合的にお得なのかを判断するようにしましょう。
合同会社を検討する
法人化する際は、株式会社ではなく、合同会社を検討するのもおすすめの方法になります。
株式会社にはない以下のメリットがあるためです。
・ 株式会社より設立費用やランニングコストが安い
・ 設立手続きが簡単なうえに税制も株式会社と同じ
設立費用などを抑えたい方は、合同会社を検討するようにしてください。
サラリーマンの場合は副業規定を確認する
サラリーマンの方が会社を設立する際は、勤務先の会社の副業規定を確認するようにしてください。
役員報酬を受け取ることなどで、個人の住民税が発生し、会社が情報を得る可能性があります。
もしも会社に副業していることが認識されることを避けたい場合は、自身ではなく配偶者を代表者にしたり、役員報酬を受け取らないようにします。
まとめ
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