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不動産オーナーさま向けコラム

不動産賃貸業における事業承継税制とは?活用方法や事業承継についても徹底解説(賃貸経営)

2023.12.15

ご存知の通り、日本では高齢化が進み問題となっていますが、中小企業においても、高齢を理由に引退を考える経営者が増え、廃業の危機に面している企業も少なくありません。

 

中小企業庁によると、2025年には経営者が70歳以上の企業が約245万社まで増加し、そのうちの約127万社が後継者不在による廃業・倒産の危機に直面するであろうと予測されています。

 

仮に事業が継承されずに廃業となると、これまでに築いてきた事業の基盤が失われ、雇用の減少にもつながるため、政府も危機感を覚えています。
そこで打ち出したものが「事業承継税制」です。

 

この制度を活用することで、事業を承継した場合にかかる相続税や贈与税の支払いが猶予され、条件を満たせば実質税負担をせずに事業承継が可能となります。
また、2018年に要件が緩和され、さらに、2019年には個人事業者の事業承継促進のため、2019年には個人版事業承継税制が新たに設けられました。

 

この記事では、事業承継税制がどのような制度であるか、また不動産賃貸業でも活用できるのかについて詳しく解説します。

事業承継税制の概要

 

事業承継税制とは、中小企業が事業を次世代に承継する際に発生する税負担を軽減するための制度です。

 

中小企業の多くは経営者自身が出資し、株式の大半を保有しています。そのため高齢になり、引退や死亡などで次の代に贈与や相続で自社の株式を渡すとなると、高額の贈与税・相続税がかかる可能性が高くなります。

 

そうなると、税金の支払いのために事業運営に支障をきたすことも考えられ、事業承継がスムーズに進まなくなります。

 

こういったことを避けるために事業承継税制は創設されました。

事業承継税制ができた背景

事業承継税制は、高齢化が進行する中、事業承継が十分に行われていない現状を改善するために作られた制度です。

 

中小企業の経営者の平均年齢は、1978年には53歳であったのが、2010年には59歳に上昇し、年齢のボリュームゾーンは、1995年時点で47歳だったのが、2015年には66歳まで上昇しています。

 

また、中小企業庁の報告によれば、経営者の交代率は、1975年から1985年の10年間で平均約5.0%だったのに対し、2011年には2.5%に低下しています。

 

この傾向が続くと、日本の産業の基盤である多くの中小企業が廃業へと追い込まれ、それによって多数の雇用が失われる可能性が一層に高くなります。

 

政府はこの状況に対し強い危機意識を持ち、迅速な対策を講じるために事業承継税制を作りました。

事業承継税制の要件

事業承継税制を活用するためには様々な要件を満たす必要があります。
先代経営者、後継者、会社に求められる要件があり、詳細については、下記に要件をまとめたので確認しておいてください。

 

要件の種類 内容
先代経営者の要件

1. 会社の代表取締役を経験していること

2. 贈与(または相続)直前に筆頭株主であったこと
3. 贈与後に代表取締役ではないこと
※贈与後に代表取締役を退いて代表権のない取締役会長や相談役の職に就くのは問題ありません。

後継者の要件 1. 贈与時に代表取締役であること
2. 贈与(または相続)で筆頭株主になること
3. 相続により後継者となる場合、5ヶ月内に代表取締役に就任し役員であること
会社の要件 1. 中小企業者であること
2. 従業員が1人以上いること
3. 上場会社や風俗営業会社でないこと
4. 資産管理会社等に該当しないこと
5年間守るべき要件 1. 後継者が代表者で筆頭株主であること
2. 猶予対象株式を継続保有していること
3. 雇用の8割以上を5年間の平均で維持すること
5年経過後の要件 後継者が猶予対象株式を継続保有していること
免除になるための要件 後継者が次の代に事業承継すること(相続の場合は事業承継税制利用不要で全額免除)

事業承継税制のメリット

事業承継税制の最大のメリットは、条件を満たせば、最終的に相続税あるいは贈与税が全額免除になることです。

 

一定の手続きが必要ではありますが、収めるはずだった税金が免除されたり納税が猶予されるため、経営において大きなメリットとなります。

 

事業承継税制の要件を満たしているなら利用するようにしましょう。

事業承継税制のデメリット

大きなメリットがある事業承継税制ですが、デメリットとなる点もあります。

 

デメリットは以下の4つです。

 

●   途中でやめると利息が発生する:事業承継税制を利用中に事業を継続できなくなった場合、猶予されていた贈与税・相続税を支払う必要があり、加えて年0.7%の利息がかかる
●    M&Aができなくなる:M&Aにより株式を売却すると、事業承継税制の適用が終了し、猶予されていた税金を納める必要が出てくる
●    毎年の届出書の提出が必要となる:制度適用後5年間は毎年、その後は3年に1回、都道府県と税務署に継続届出書を提出しなければならない
●    経験がある税理士が少ない:新しい制度のため、扱った経験がある税理士が少なく、不備があると税制適用の取り消しと納税義務が発生するリスクがある

 

上記のデメリットを理解したうえで事業承継税制の利用を検討してください。

不動産賃貸業は事業承継税制を適用できるのか

 

事業承継税制では、資産管理会社は原則として事業承継税制を受けられないとしています。

 

不動産賃貸業の会社が同制度を適用するための条件について解説しましょう。

不動産賃貸業は事業承継税制を適用しにくい

事業承継税制は、資産管理会社には適用されないと明確に規定されています。

 

資産管理会社とは、資産保有型会社と資産運用型会社に大別されますが、以下の条件のどちらかに当てはまる会社であれば資産管理会社です。

 

●    資産保有型会社:総資産のうち特定資産の割合が70%以上
●    資産運用型会社:総収入のうち特定資産からの運用収入が75%以上

 

不動産賃貸業は、その性質上、資産管理会社に該当することが多く、事業承継税制の適用を受けにくいのが実情です。

不動産賃貸業が事業承継税制を適用するには

先ほど、「事業承継税制では資産管理会社は原則として事業承継税制を受けられない」と述べましたが、例外もあります。
資産管理会社に該当する場合でも、下記の3つの条件を満たしている場合は適用可能です。

 

1. 3年以上業務を継続して行っていること
2. 事務所を所有または賃借していること
3. 従業員を常時5名以上雇用していること

 

なお、従業員には親族を含めることはできません。従業員かどうかは社会保険に加入しているか否かが判断基準となります。

個人版事業承継税制とは

2019年に個人事業主向けの制度として「個人版事業承継税制」が創設されました。

 

ここでは、個人版事業承継税制について詳しく解説します。

個人版事業承継税制ができた背景

2009年に事業承継税制が立法されたものの、複雑な手続きと厳格な要件のために普及が進みませんでしたが、2015年の規制緩和により、申請件数は大幅に増加しました。

 

とはいえ、これまでの事業承継対策は法人主体であり、事業全体の約60%を占める小規模個人事業主は対象外でした。

 

そこで、個人事業主の廃業を防ぎ事業資産を円滑に承継させるため、2019年に立法されたのが個人版事業承継税制です。

制度の概要

個人版事業承継税制は、個人事業主が事業を後継者に承継する際に発生する税金の負担を軽減することを目的とした制度です。

 

この制度を利用することで、個人事業主は贈与税や相続税の支払いを猶予、または減免されることがあります。

 

これは、中小企業や家族経営の事業が世代を超えて継続することを促し、経済の安定と発展に寄与することを意図しています。

 

ただし、個人版事業承継税制を利用するためには、要件を満たす必要があるため注意が必要です。

個人版事業承継税制の要件

個人版事業承継税制でも法人と同様に要件が定められています。

 

下記の表に要件をまとめたので確認してください。

 

要件の種類 内容
先代経営者の要件 青色申告の承認を受けていること
後継者の要件 ・贈与の日において18歳以上であること(贈与のみ)
・贈与の日まで続けて3年以上、または相続開始の直前において、事業や同種の事業に従事していること
・個人事業承継計画を期限内に提出し、経営承継円滑化法の認定を受けていること
・開業届出書・青色申告承認申請書を期限内に税務署に提出していること
事業内容の要件 資産管理事業や性風俗関連特殊営業に該当しないこと
事業用資産の要件 ・土地は400平方メートル以下
・建物は床面積800平方メートル以下
・固定資産税の課税対象となる減価償却資産
・課税対象となる自動車等、乳牛・果樹等の生物、特許権などの無形固定資産

 

個人版事業承継税制の利用を検討する際は、まず上記の要件を満たしているのか、確認するようにしてください。

個人事業で不動産賃貸業を行っている場合は適用できるのか

個人事業主が不動産賃貸業を営んでいる場合においても、資産管理事業に該当するため、原則として個人版事業承継制の適用対象外です。

 

しかし、以下の3つの条件を満たす場合には、例外として適用が認められる可能性があります。

 

●    事業を3年以上継続していること
●    事務所を所有もしくは賃借していること
●    常時5名以上の従業員を雇用していること

 

上記さえ満たせば、不動産賃貸業でも適用できるケースがあることを覚えておきましょう。

個人版事業承継税制以外の不動産の承継方法

 

先述したように、個人事業で不動産賃貸業を行っている場合は、個人版事業承継税制を適用するのが容易ではありません。

 

そこで、ここではその他の承継方法について解説します。

法人化する

法人化することで、税負担の軽減が期待できます。

 

以下にメリットとデメリットをまとめたので確認してみてください。

 

法人化のメリット

 

 

メリット項目 説明
不動産承継の容易さ 個人事業から法人化することで、不動産の名義を法人にすることができ、承継がしやすくなる。
節税効果 ・実際の財産よりも株式を通して相続する方が、財産の評価額が低くなる可能性がある。
・役員報酬により資産を分散することができる。
税務上のメリット 法人化により給与所得控除の適用、経費計上できる費用の増加、控除項目の追加などがある。

 

 

法人化のデメリット

デメリット項目 説明
会計処理の複雑さ 法人化により会計処理が複雑になり、税理士などの外部専門家の必要性が増す。
初期費用と継続的な税金 法人化の初期費用がかかり、赤字の場合でも法人税の納税義務が生じる。

 

上記のメリットとデメリットを把握したうえで、法人化するかどうかを見極めるようにしましょう。

小規模宅地等の特例を適用

小規模宅地等の特例とは被相続人が住宅や事業に使っていた宅地等の相続税を減額する制度です。

 

この制度を利用することによって、居住用の土地だけでなく事業に使っていた宅地などへの税金を軽減できます。

 

なお、下記に小規模宅地等の特例に関する減額率と適用要件を表にまとめたので参考にしてみてください。

 

区分 減額率 限度面積 適用要件
特定事業用宅地等 80% 400平方メートルまで ・被相続人またはその親族が事業用として取得
・申告期限まで土地を所有し続け、事業を続けている
・主に居住目的で使用されている宅地
貸付事業用宅地等 50% 200平方メートルまで ・相続税申告期限まで継続して貸付事業を行っている
・相続税申告期限まで宅地を保有している
・相続開始前3年以内に始めた宅地ではなく、3年以上の貸付事業がある場合

 

注意すべき点は、事業主が死亡した日より3年以内に事業用として取得した場合は、小規模宅地等の特例の対象外となる点です。

 

また、小規模宅地等の特例は、個人版事業承継税制と併用できないことも覚えておいてください。どちらかを選ぶ必要がありますので注意が必要です。

まとめ

事業承継税制は、複雑な要件と手続きが必要ですが、非常に高いメリットが得られる制度です。そのため、適用可能かどうか、事前に確認しておくことが重要になります。

 

ちなみに、不動産賃貸業においても事業承継税制は利用できますが、常時5名以上の従業員を雇用している必要があるなど、ハードルはやや高めです。

 

このため、専門家の意見を求め、適切な対策を講じながら事業承継を進めることをおすすめします。

 

この記事では、事業承継税制の制度の説明や活用方法ついて解説してきました。

この記事を書いた人

DAINICHI 編集部 不動産チーム

DAINICHI 編集部 不動産チームは社内外の有識者により構成されています。不動産の投資、管理、運用、リノベーション、売却、有効活用などの方法について、様々な視点から不動産に関する有益な情報をお伝えします。

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