家賃収入が課税・非課税になる条件とは?簡易課税制度についても解説
不動産経営を行っていくうえで税金についての知識は不可欠です。
消費税については、経営する賃貸物件の家賃収入に対して課税されるのか、課税されないのかの違いによって収支が大きく変わってきますので、しっかり理解しておく必要があります。
この記事では、家賃収入に対して消費税がかかる場合と、かからない場合について説明し、消費税の計算方法を解説します。
消費税の概要
消費税は事業者が販売する物品やサービスなどに上乗せされる税金で、消費者が支払っています。
消費者が直接納税する「直接税」ではなく、事業者が消費者から預かった消費税を消費者に代わって国に納付するため「間接税」といわれています。
課税対象となる取引
消費税の課税対象となるには、次の4つの要件すべてに当てはまる必要があります。
● 国内で行う取引
● 対価を得て行うもの
● 事業者が事業として行うもの
● 資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供
事業者も仕入段階では他の事業者に消費税を払う
課税対象となるのは、課税の基準となる期間に課税売上高が1,000万円を超える事業者です。
個人事業者の場合は暦年の前々年、法人の場合は事業年度において前々事業年度が、課税の基準となる期間となります。
なお、消費税の計算式は、原則として下記のとおりです。
「売上により預かった消費税」-「仕入等により支払った消費税」=「納税する消費税」
課税事業者は、消費者から預かった消費税額から、仕入れとして支払った消費税額を差し引いた金額を納税する義務があります。
消費税の課税対象とならない取引
消費税の課税対象とならない取引には「非課税取引」「不課税取引」「免税取引」があります。
以下の表に詳細をまとめました。
名称 | 内容 | 非課税対象例 |
非課税取引 | 消費税を課すと消費者の日常生活に支障をきたすもののこと | 土地の売買・貸付、株式など有価証券の売買、預貯金や貸付金の利子、切手や商品券の購入、行政サービスの手数料、社会保険の対象になる医療費、介護サービスなどの提供、出産費用、学校の授業料や入学金、教科書の購入、住宅の貸付など |
不課税取引 | 消費税の課税4要件を1つでも満たさない取引のこと | 給与・賃金、寄付金・祝金・見舞金・補助金や助成金、保険金や共済金、株式の配当金、資産の廃棄・盗難・滅失、損害賠償金 など |
免税取引 | 資産の譲渡等が輸出取引に当たる場合のこと | 商品の輸出や国際輸送、外国にある事業者に対するサービスの提供など |
上記を参考にして消費税の対象にならない取引を覚えておきましょう。
不動産経営において非課税になる収入
不動産経営で家賃収入を得て、非課税になるのはどのような場合でしょうか。
ここでは、家賃収入が非課税になるケースについて解説します。
住宅の家賃
居住用の住宅の家賃については原則非課税です。
居住用物件の家賃は人々が生活するうえで必要不可欠な支出であるため社会政策として非課税とされています。
居住用の住宅とみなされるためには、下記の2つの条件を満たす必要があります。
1.契約書に居住用であることが明記されていること
2.賃貸期間が1か月以上であること
居住用物件の場合でも、契約期間が1か月未満の場合は消費税がかかります。
また、1か月以上の賃貸となった場合でも、ホテル、旅館、ウィークリーマンションなどは例外で消費税の課税対象です。
企業が社宅として借り上げている場合でも、用途が居住用であれば非課税となります。
また、もし契約書に記載されていない場合であっても、居住している実態が明らかな場合は課税されません。
住宅の敷金・礼金・更新料
居住用の物件については、敷金・礼金・更新料も非課税となります。
敷金は、家賃の滞納や退去時に借主が負担すべき原状回復費を担保するもので、預かり金扱いになるため消費税はかかりません。
但し、実際に原状回復工事を行った際には課税対象となります。
住宅の共益金や管理費
アパートやマンションなど集合住宅の共益費や管理費も非課税です。
共益費や管理費は居住するために必要な費用であり、家賃収入と同様に非課税と規定されています。
修繕積立金も課税されません。修繕や管理業務を発注しているのは管理組合です。
区分所有者が管理組合にお金を預けていると考えられるため、支払いに対価性がなく消費税の課税対象外になります。
ただし、家賃とは別に一定額の水道光熱費を請求している場合や、使用量に応じて料金を請求している場合は課税対象となるので注意が必要です。
また、マンションに付属するプールやトレーニングルームを使用する際に、家賃とは別に使用料を払う場合にも課税対象となります。
不動産経営において課税となる収入
不動産経営で家賃収入を得て課税されるのは、事業用の家賃である場合です。
詳しく解説しましょう。
事務所・店舗など事業用家賃
事業用物件の家賃収入には消費税が課税されます。事業用物件としては下記のようなものがあります。
● 貸店舗
● 貸事務所
● 貸倉庫 など
これらの物件の賃料の支払いは、事業活動の一部として捉えられて消費税の対象となります。
そのため、家賃に消費税がかかると想定して家賃を設定しなければなりません。
例えば、30万円の家賃を得るためには、借主から33万円(消費税10%の場合)としておく必要があります。
事業用の物件の場合であっても、敷金や保証金は家賃の滞納や退去時に借主が負担すべき原状回復費を担保するもので、預かり金扱いとなるため消費税はかかりません。
なお、更新料、礼金、共益費は消費税の課税対象になるので注意が必要です。
店舗兼住宅の家賃
事業用物件であっても、2階建ての1階が店舗で2階が住居といった住居兼店舗という場合もあります。
例えば契約書に「住居兼店舗用」といった記載がされている物件では、居住部分と店舗部分の床面積で賃料を按分し、事業用の部分のみが課税対象となるのが一般的です。
契約書の中で、物件の利用目的や区分を明確にしておくことが重要です。
駐車場は条件次第
駐車場は条件次第で消費税の対象となる場合とならない場合があります。
基本的に、空き地に手を加えずそのまま貸している駐車場や資材置き場は、土地を消費しているのではないため非課税扱いです。
しかし、土地を整備して区画を仕切ったり、パーキング設備を設置したりして駐車場施設として利用すると、駐車場に対する賃料は消費税の対象となります。
アパートやマンションの駐車場は、下記の4つの条件を満たせば非課税となります。
1. 駐車場が賃貸マンション・アパートの敷地内にある(建物と駐車場が一体となっている)
2. 入居者1戸あたり1台以上ずつの駐車場が確保されている
3. 自動車を保有しているかにかかわらず、全住戸に駐車場が割り当てられている
4. 家賃収入を住宅部分と駐車場部分とに区別して収受していない
賃貸アパートやマンションの入居者用の駐車場だとしても、駐車場が敷地外にある場合は1の条件を満たしていません。
また、車を所有していない入居者に割り当てられている駐車区画を別の入居者に貸し出している場合は、2の条件を満たしていないと見なされるため消費税がかかります。
課税業者になったらいつどうやって消費税を払うのか
課税事業者になった場合に、消費税はいつどうやって支払えばいいのでしょうか。
ここでは、消費税を支払うタイミングと支払い方について解説します。
消費税の支払いは2年後から
課税の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者が消費税の納税義務があります。
個人事業者は暦年の前々年、法人は事業年度において前々事業年度が課税の基準期間です。
ただし、基準期間中の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間においては課税事業者となります。
個人事業者の場合は前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は、原則として、前事業年度開始の日以後6か月の期間のことを特定期間といいます。
なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高以外にも、支払った給与の合計金額により判定することも可能です。
新規に開業した法人や個人事業主の場合は、課税対象かの判断のもととなる課税期間の基準期間の売上がありません。
そのため個人事業主は開業から2年間は免税事業者になると規定されています。
一方、法人は資本金の金額で免税事業者となるかどうかについて判断されます。
法人は、資本金1,000万円以上であれば設立1期目から課税事業者になり、資本金1,000万円未満の法人は1期目・2期目は免税事業者となることを覚えておきましょう。
支払いのタイミング
消費税の課税業者となった不動産オーナーが気になるのは、3期目の消費税をいつどのように支払えばよいのかということでしょう。
3期目以降の納税については、個人事業主と法人とでは異なります。
個人事業主の場合は対象年度の翌年の3月末まで、法人の場合は課税期間末日の翌日から2か月以内です。
所轄税務署に対して地方消費税と消費税を併せて申告して納付します。
なお、消費税の内訳は、標準税率10%の場合、消費税率7.8%、地方消費税率2.2%となります。
消費税の基本的な計算方法
消費税は、消費者から預かった消費税額から事業者が支払った消費税額を差し引いた金額を納税します。
消費税の納税額を計算する方式には、「原則課税」と「簡易課税」の二つの方式があります。
「原則課税」は個別の取引について支払った消費税と受け取った消費税を抜き出し、その差額を計算して納税額を割り出す方式です。
計算式は下記のとおりです。
課税売上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額
原則課税は、全ての取引で消費税を管理する必要があるため、正確な消費税額を計算できますが、取引の中には消費税がかからないものも含まれているため、ひとつずつ仕訳けて計算しなければなりません。
また、仕入税額控除の適用を受けるためには、一定の事項を記載した帳簿及び適格請求書(インボイス)等を保存しておく必要があります。
「簡易課税」は受け取った消費税に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて算出する簡易な計算方式のことです。概算で割り出す方式なので正確な消費税額は計算できませんが、作業負担が大幅に軽減されるのがメリットです。
売上5,000万円以下なら簡易課税制度の利用が便利
原則課税はすべての取引を計算しなければならず、作業が煩雑になるのが難点です。
人材などの経営リソースが限られている小規模企業には負荷がかかりすぎることから、簡易課税を採用するケースが多いです。
ここでは簡易課税について解説します。
簡易課税の条件
簡易課税は誰でも利用できる制度ではなく、選択するには一定の条件を満たす必要があります。適用条件は下記の2つです。
1.基準期間の課税売上高が5,000万円以下
課税対象となる取引で、売上高から非課税や不課税取引の金額を差し引いた結果が5,000万円以下であれば、簡易課税を選択できます。
2.「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している
管轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出」を提出する必要があります。個人の場合、次年度に簡易課税制度を利用したいなら本年中に提出しなければなりません。
簡易課税を検討しているなら適用条件を覚えておきましょう。
簡易課税の消費税の計算方法
簡易課税の消費税額の計算式は下記のとおりです。
納税額=(売上にかかる消費税額)-(売上にかかる消費税額×みなし仕入率)
「みなし仕入率」は業種ごとに6つに分類されており、仕入れ率が高い卸売業者は90%、小売業者は80%ですが、不動産業者は仕入れ金額が少ない業態であるため40%とされています。
不動産賃貸で2,200万円(税込み)の課税賃貸収入があった場合で計算すると、納付消費税額は、下記のようになります。
200万円-(200万円×40%)=120万円
ちなみに、簡易課税は計算が簡単で人手が少ない小規模事業者に適していますが、高額な物件の購入費や設備投資費などで消費税の還付を受けたい場合は、原則課税が適しているでしょう。
また、簡易課税制度は、一度選択すると2年以上継続しなければなりません。
どちらの課税方式を採用するのか、事前に検討する必要があります。
まとめ
ここまで家賃収入に対して消費税が課税される場合と非課税になる場合の条件について解説しました。
税金のことは税理士に依頼しているのでよくわからないという方も多いかと思いますが、自分の事業に対してかかる税金の仕組みは理解しておきたいものです。
居住用物件のオーナーの方は消費税がかからないので、あまり気にする必要がありませんが、オフィス・店舗や駐車場など事業用物件の家賃収入を得ようとしている方は、消費税について十分に知識を持っておいたほうがよいです。
実際の事業で疑問に思うことがあれば、税理士などに相談して判断しましょう。
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