賃貸経営で出た利益の税金額は?節税方法はある?
2022.02.15
賃貸経営を行ううえで、税金に関する知識や節税対策の知識を持っておくことは、非常に重要になります。
これらの知識を持っていることで、最終的に手元に残る資金がわかり、資金計画がより正確になるだけでなく、手元に残る資金を増やすことが出来るためです。
しかし、税金は複雑なため「税金の計算方法は難しくて理解出来ない」や「節税方法を分かりやすく解説してほしい」などの不安や要望を持っている方も少なくありません。
そのため、この記事では、賃貸経営の利益に対する税金と節税方法について詳しく解説していきます。 賃貸経営を行っている方やこれから賃貸経営を行う方は、この記事を参考にしてみてください。
賃貸経営で出た利益に対する税金とは?
賃貸経営を行った際に出る利益には、当然ですが税金が課せられます。課せられる税金は決して安いものではなく、場合によっては賃貸経営を圧迫しかねません。
しかし、税金の計算は複雑なため、いくら課税されるかも理解できていない方は多いです。
このため、賃貸経営で出た利益に対する税金とその計算方法について解説していきます。 賃貸契約をしている、もしくは始める方は必ず確認するようにしましょう。

所得税
家賃収入を得て利益が出た場合は、所得税が課税されます。所得税とは、個人の所得に対して課税される税金のことです。
なお、課税される所得は、「所得税法」によって以下の10区分のいずれかに分類されます。
1. 利子所得:預貯金の利子や公社債投資信託などの収益の分配に係る所得
2. 配当所得:株式による配当や投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)に対する配当などの所得
3. 不動産所得:家賃収入や地上権、船舶や航空機などを貸し付けたことによる所得
4. 事業所得:卸売業や農業、サービス業の事業(不動産の貸し付けや山林の譲渡による所得を除く)によって得られた所得
5. 給与所得:会社など勤め先からの給料、賞与などの所得
6. 退職所得:勤務先を退職したことにより受け取れる退職手当などの所得
7. 山林所得:山林を伐採して譲渡ことや立木のまま譲渡することで得られた所得
8. 譲渡所得:土地、建物、その他設備などの資産を売却して得られた所得
9. 一時所得:所得懸賞や競馬の払戻金など一時的に得られた所得
10. 雑所得:上記の1-9に分類できない所得(副業で得た所得や公的年金など)
賃貸経営で得た利益は3つ目の不動産所得です。不動産所得とは、家賃収入を含む不動産総収入から、賃貸経営に関わる経費を差し引いた所得のことを指します。
所得税の税率
日本では、所得が高額な人であるほど税率が高くなる累進税率制度が採用されており、所得によって税率が異なります。
所得税の税率は以下の表を確認してください。
課税所得の金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円から694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円から899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円から1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円から3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
上記の課税所得とは実際の収入から経費や控除を差し引いたものになります。
課税所得に税率を掛けて控除額を引いた金額が所得税額です。
なお、2013年1月1日から2037年12月31日までは、東日本大震災復興のために、復興特別所得税として所得税に年2.1%を掛けた特別税が徴収されています。
所得税の計算方法
不動産所得の所得税を計算するには、以下の計算式を使用します。
不動産所得=不動産総収入−賃貸経営に関わる必要経費
課税所得金額=(給与所得+不動産所得)-各種所得控除
所得税額=課税所得金額×税率−控除額
では、実際に以下の条件で不動産所得の所得税額を計算してみましょう。
○前提条件
・不動産総収入:750万円
・賃貸経営に関わる必要経費:120万円
・給与所得と各種所得控除は無く、課税所得は不動産所得のみとする
・復興特別所得税は考慮しない
750万円(不動産総収入)−120万円(経費)=630万円(不動産所得)
630万円(課税所得金額)×20%(税率)−42万7,500円(控除額)=83万2,500円(所得税額)
この条件なら、83万2,500円の所得税が掛かることが分かります。
個人住民税
個人住民税は住居がある都道府県と市区町村へ納税する個人に対する税金になります。区市町村民税と道府県民税(東京都の場合は都民税)の2種類があり、税率は以下の表を確認してください。
所得割(標準税率) | 均等割(年額) | |
---|---|---|
区市町村民税 | 6% | 3,000円(3,500円) |
道府県民税・都民税 | 4% | 1,000円(1,500円) |
合計 | 10% | 4,000円(5,000円) |
※()内の金額は臨時増税(2014年~2023年)後の額
出典:品川区(https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/procedure/procedure-zeikin/procedure-zeikin-zeigaku/procedure-zeikin-zeigaku-kuminzei/index.html)
上記の表に記載されているように、個人住民税は前年の所得金額に課税される所得割と、所得金額と関係なく課税される均等割があり、その合計が住民税として課税されます。
例外として、生活保護を受けている場合や前年の総所得が一定以下の場合など、条件に該当する場合の住民税は非課税です。
なお、2024年からは森林環境税が年1000円課税されます。森林環境税は住民税と一緒に課税されるため、覚えておきましょう。
住民税の計算方法
不動産所得の住民税を計算する際の計算式は以下になります。
所得割額 =課税所得金額×道府県民税と都民税率の合計(10%)− 税額控除
均等割額 = 道府県民税額・都民税額(均等割)+ 区市町村民税額(均等割)
住民税額=所得割額+均等割額
ちなみに、所得割計算式にある税額控除とは、主に以下の控除をさします。
- 外国税額控除
- 寄附金税額控除
- 配当割額及び株式譲渡所得割額の控除
- 住宅借入金等特別税額控除
出典:東京都主税局(https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kojin_ju.html#gaiyo_08)
上記以外にも税額控除はあるので、お住まいの自治体ホームページで詳細を確認するようにしください。
では、実際に以下の条件で住民税額を計算してみましょう。
○前提条件
・不動産総収入:750万円
・賃貸経営に関わる必要経費:120万円
・税額控除:なし
・給与所得と各種所得控除は無く、課税所得は不動産所得のみとする
・都民税額:1500円
・区市町村民額:3500円
750万円(不動産総収入)−120万円(諸経費)=630万円(課税所得)
630万円(課税所得)×10%(税率)=63万円(所得割)
3,500円(均等割の区市町村民税額)+1,500円(均等割の都民税額)=5,000円(均等割)
63万円(所得割)+5,000円(均等割)=63万5,000円(住民税額)
この条件で課税される住民税は、63万5,000円になります。
個人事業税
不動産賃貸業などの収益事業をおこなっている事業者に課せられる地方税が事業税です。
個人事業税の対象となる業種は、第一種事業〜第三種事業の3つに分類されており、それぞれ税率が異なります。
各分類の税率は以下の表を確認してください。
主な業種 | 税率 | |
---|---|---|
第一種事業 | 不動産貸付業などの37業種 | 5% |
第二種事業 | 水産業などの3業種 | 4% |
第三種事業 | 税理士業などの31業種 | 5% |
ちなみに、事業税は事業を営んでいる方全員が課税されるわけではありません。一定以上の規模(事業的規模)で事業を行っている場合に課税されます。
賃貸経営の場合の事業規模に該当するかの基準は以下です。
- 一戸建住宅を10棟以上貸付けている場合または、アパートやマンションなどの部屋を10室以上貸付けている場合
- 不動産の貸付けによる年間収入金額が一定以上の場合(地域によって異なる)
- 延床面積が600平方メートル以上の場合
出典:神奈川県(https://www.pref.kanagawa.jp/zei/kenzei/a001/b004/001.html)
上記のような条件が各都道府県によって設定されています。
条件は都道府県によって異なる部分もあるため、ご自身が経営している不動産がある地域の条件を確認するようにしましょう。
個人事業税の計算方法
不動産所得の個人事業税を計算する際の計算式は以下になります。
個人事業税額 =( 課税所得金額 − 事業主控除290万円 ) × 税率(5%)
では、実際に以下の条件で個人事業税を計算してみましょう。
○前提条件
・課税所得金額:630万円
・事業主控除:290万円
・事業税率:5% (630万円(課税所得金額)−290万円(事業主控除))×5%(税率)=17万円(事業税額)
上記の条件の場合の事業税は17万円になります。
賃貸経営で利益が出た場合の税金のシミュレーション
賃貸経営で利益が出た際の所得税・住民税・事業税を計算します。

○前提条件
・不動産総収入:530万円
・賃貸経営に関わる必要経費:90万円
・給与所得と各種所得控除は無く、課税所得は不動産所得のみとする
・税額控除:なし
・均等割の都民税額:1500円
・均等割の区市町村民額:3500円
・事業主控除:290万円
・事業税率:5%
・復興特別所得税は考慮しない
①所得税計算
530万円(不動産総収入)−90万円(経費)=440万円(不動産所得)
630万円(課税所得金額)×20%(税率)−42.75万円(控除額)=45万2,500円(所得税額)
②住民税計算
440万円(課税所得)×10%(税率)=44万円(所得割)
3,500円(均等割の区市町村民税額)+1,500円(均等割の都民税額)=5,000円(均等割)
44万円(所得割)+5,000円(均等割)=44万5,000円(住民税額)
③事業税計算
(440万円(課税所得金額)−290万円(事業主控除))×5%(税率)=7万5,000円(事業税額)
④合計
45万2,500円(所得税額)+44万5,000円(住民税額)+7万5,000円(事業税額)=97万2,500円
上記のように不動産所得を440万円得ていた場合の税金額は、97万2,500円になります。
賃貸経営で節税する方法
税金によって利益が削減されてしまうため、節税対策を行うことは重要です。
そのため、ここでは、賃貸経営で節税する方法について解説していきます。賃貸経営を行っている方は参考にしてください。

不動産投資で計上できる経費を漏れなく計上する
節税対策の基本は、賃貸経営に関わる経費を漏れることなく正確に計上することです。経費を計上すればするほど、課税所得を少なく出来るためです。
なお、賃貸経営に関わる経費として計上できる具体例としては、以下の項目があります。
・ 固定資産税や都市計画税、登録免許税などの税金
・ 減価償却費
・ 地震保険と火災保険の保険料
・ 経営している不動産の管理費・修繕費
・ 投資用ローンの金利
・ 管理会社への委託料
・ 現地調査や打ち合わせなどの旅費交通費
・ 管理会社との打合せなどの交際費
・ 情報収集するための新聞などの諸経費
上記のように、賃貸経営に直接関わる経費の場合は計上が可能です。
ただし、関連性が微妙な場合など、判断に迷う場合は専門家である税理士に相談するようにしましょう。
損益通算を利用して節税する
給与所得などの不動産所得以外の収入がある状態で、不動産所得が赤字になった場合は、損益通算を利用することで節税出来ます。具体的には、損益通算を行って確定申告することで、払いすぎた税金の還付を受けることが可能です。
ちなみに、損益通算は下記の4つの所得でしか利用することが出来ません。
・ 事業所得
・ 不動産所得
・ 譲渡所得
・ 山林所得
出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm)
上記の4つの所得で赤字になった場合は、損益通算が出来ないか検討してみてください。
損益通算の計算方法と損益通算を利用した節税のシミュレーション
不動産所得の損益通算の計算式は以下です。
不動産所得(赤字)=不動産からの収入-賃貸経営に関わる必要経費
損益通算後の所得=給与所得-不動産所得(赤字)
ここでは、以下の条件で損益通算を利用した際の所得税額と、損益通算を活用していない場合を比較します。
○前提条件
・本業の給与所得:700万円
・不動産総収入:320万円
・減価償却費などの諸経費:440万円
・基礎控除額:48万円
・社会保険料控除:100万円
・給与所得控除:180万円
①損益通算を活用しない場合の課税所得と所得税
700万円−48万円(基礎控除)−100万円(社会保険料控除)−180万円(給与所得控除)=372万円(課税所得)
372万円(課税所得)×20%(税率)-42万7,500円=31万6,500円(所得税)
②損益通算を活用した場合の課税所得と所得税
320万円(不動産総収入)-440万円(減価償却費などの諸経費)=△120万円(不動産所得)
(700万円−120万円)−48万円(基礎控除)−100万円(社会保険料控除)−180万円(給与所得控除)=252万円(損益通算後の課税所得)
252万円×10%(税率)-9万7,500円=15万4,500円(損益通算後の所得税)
③損益通算を活用した場合と活用していない場合の所得税の比較
31万6,500円(給与所得のみの所得税)−15万4,500円(損益通算後の所得税)=16万2,000円(差額)
不動産所得と損益通算後の所得税と給与所得のみの所得税を比較すると、損益通算後を行ったほうが所得税が16万2,000円安くなります。
減価償却を利用する
賃貸経営で減価償却をうまく活用することで節税対策が出来ます。減価償却費は経費として計上出来るためです。
なお、減価償却とは物件の設備や建物が経年劣化することで低下する価値を、固定資産の価値から差し引くことを指します。この減価償却を定められた計算式で計算したものが減価償却費です。
減価償却費は実際に支出していない経費として計上出来るため、不動産所得を少なくすることが出来ます。そのため、節税に繋げることが可能です。
ただし、減価償却の対象は建物のみで、土地は対象にならないことを覚えておくようにしましょう。
法人化することで節税できる場合がある
賃貸経営をしている際に、法人化することで節税できるケースがあります。法人の場合は所得税や住民税、事業税ではなく、法人税や法人住民税、地方法人税、法人事業税が課税され、それぞれ税率が異なるためです。
なお、法人税の税率は以下の表を確認してください。
課税所得税額 | 税率 |
---|---|
800万円以下 | 15% |
800万円以下 | 19%(適用除外事業者) |
800万円超 | 23.20% |
(開始事業年度 平成31.4.1以後)
※適用除外事業者とは、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。
出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
この法人税に法人住民税や地方法人税、法人事業税を合わせた実効税率(事業者所得に対する負担率)は29.74%(2021年1月現在)です。
出典:財務省(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/c01.htm)
一方で、個人の場合は所得税や個人住民税などが所得に合わせて課税されます。 法人と個人で控除の内容が違うため、一概に比較するのは難しいですが、単純に法人の実効税率の29.74%を超える個人の実効税率(所得税と個人住民税の合計・控除を除く)が33%である課税所得695万円以上の場合は、法人の実効税率を超えるため法人化したほうが節税になる可能性が高いです。
このため、課税所得が695万円を超えた場合は、法人化を検討してみてください。
まとめ
賃貸経営で成功するには税金やその対策を理解しておくことが非常に重要になります。税金について理解しておくことで正確な資金計画が立てられるだけでなく、キャッシュフローを貯められるためです。
そのため、この記事では、賃貸経営の利益に対する税金と節税方法について詳しく解説していきました。 賃貸経営を行っている方は、この記事を参考にしてみてください。
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