目次
賃貸住宅のオーナーなら知っておきたい「⼤規模修繕」③大規模修繕にかかる費用

アパートやマンションのオーナーの中には、大規模修繕の重要性を理解していても、費用面のことが気になって、実施をためらう人も少なくありません。
そのため、大規模修繕にかかる費用の相場を把握して、大規模修繕計画を立てておくことが重要です。
そこで、ここでは国土交通省が実施した実態調査を参考に、大規模修繕にかかる費用の相場や費用を抑える方法、万一不足した場合の対処法などを解説します。また、いつごろ、どのような修繕を行い、どのくらいの費用がかかるのかなど、大規模修繕に関わる疑問についても詳しく回答しますので、参考にしてください。
大規模修繕の費用の相場

大規模修繕の費用相場は、一概には言えません。マンションやアパートの種類、不動産の規模など、所有している不動産によって大きく異なるためです。
とはいえ、ある程度の目安がわからないと大規模修繕を実施しようにも、困る方が多いと思います。そういった方は、国土交通省から公表されている「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」を目安とすることがおすすめです。
国交省が公表した大規模修繕工事の相場
このガイドブックによると、民間賃貸住宅の大規模修繕工事の戸当たり相場はこのようになります。
なお、このガイドブックはあくまでも目安であり、物件の規模や築年数、仕様などによってかかる費用は大きく異なります。まずは下記を参考にして、ご自身の所有する物件に合った適切な大規模修繕を行うことが大切です。
例①RC造20戸(1LDK~2DK)
築5~10年目 約9万円/戸
築11~15年目 約55万円/戸
築16~20年目 約23万円/戸
築21~25年目 約116万円/戸
築26~30年目 約23万円/戸
合計 約225万円/戸【棟あたり約4,490万円】※30年目以降も修繕は必要となります。
例②RC造10戸(1K・1R)
築5~10年目 約7万円/戸
築11~15年目 約46万円/戸
築16~20年目 約18万円/戸
築21~25年目 約90万円/戸
築26~30年目 約18万円/戸
合計 約177万円/戸【棟あたり約1,770万円】※30年目以降も修繕は必要となります。
例③木造10戸(1LDK~2DK)
築5~10年目 約9万円/戸
築11~15年目 約64万円/戸
築16~20年目 約23万円/戸
築21~25年目 約98万円/戸
築26~30年目 約23万円/戸
合計 約216万円/戸【棟あたり約2,160万円】※30年目以降も修繕は必要となります。
例④木造10戸(1K・1R)
築5~10年目 約7万円/戸
築11~15年目 約52万円/戸
築16~20年目 約18万円/戸
築21~25年目 約80万円/戸
築26~30年目 約18万円/戸
合計 約174万円/戸【棟あたり約1,740万円】※30年目以降も修繕は必要となります。
大規模修繕は賃貸水準を保つのに効果的
国土交通省が2017年3月に発表した「民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査検討報告書」によれば、修繕または大規模修繕を実施していないオーナーの“実施しない理由”の第1位は「資金的余裕がない」(28.1%)でした。次いで、「必要性が理解できない」(22.6%)、「管理業者やサブリース業者からの提案がない」(21.0%)、「自身の考えで実施しない」(18.7%)です。この結果からも、大規模修繕を行う上で費用が大きなハードルになっていることがよくわかります。
一方で、長期修繕計画に基づく修繕を実施しているオーナーが感じている、計画的に修繕を実施したことの効果をみてみると、最も多かったのは「家賃水準を維持できた」(42.8%)。次いで、「高い入居率を確保できた」(39.3%)、「長期にわたり住宅の性能が維持できた」(30.4%)でした。このことから、費用は大きなハードルではありますが、実際やってみると、やってよかったと満足しているオーナーが多いようです。
出典:国土交通省 「民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査検討報告書」(https://www.mlit.go.jp/common/001397674.pdf)
大規模修繕は大がかりな工事になるため多大な費用がかかりますが、実施することで事業用物件の競争力を維持することができるため、費用対効果は高く、安定した収益を確保するために必要な工事といえます。
工事別の費用の相場
「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によれば、工事金額の内訳の中で最も多く占めていたのが外壁関係(24.0%)、次いで防水関係(22.0%)、仮設工事(19.2%)でした。また、2回目は給水設備、3回目以上は建具・金物等の工事が多くなると報告されています。
では、具体的に各工事の費用はどのくらいかかるのでしょうか?あらかじめ大体の金額を把握しておくことは、長期修繕計画を立てたり見直したりするときに役に立ちます。
建物診断の費用相場
適切な大規模修繕工事を行うために欠かせないのが建物診断です。費用はアパートやマンションの規模にもよりますが、専門業者での調査費用は20万~80万円が相場です。
建物診断は建物の状態を把握するために行い、専門の調査員が目視や触診、機械調査(サーモグラフィーやファイバースコープなど)で、劣化の状態を細かく確認してくれます。
構造上の問題がないか、仕上げ材の浮きや割れがないか、防水の寿命はまだあるか。そして、それぞれの指摘箇所を修繕した場合、費用はどのくらいになるか。専門家の目で見た報告書と概算費用が提出されるので、どの箇所から修繕を進めていくべきか工事内容の計画を立てることができます。
なお、建物診断を行う際には、竣工図書(図面)はもちろんのこと、過去の修繕や点検に関する書類が必要になります。建物の構造や付属する設備、使用状況などについて把握し、整理しておきましょう。
【例別の概要】
例①RC造20戸(1LDK~2DK)一棟あたり約4,490万円
例②RC造10戸(1K・1R)一棟あたり約1,770万円
例③木造10戸(1LDK~2DK)一棟あたり約2,160万円
例④木造10戸(1K・1R)一棟あたり約1,740万円
なお、ここでは、上記で記載した4種類の例の一棟当たりの修繕費用をもとに費用相場を計算していきます。
※小数点以下は四捨五入
仮設工事費用
例別費用:例①4,490万円 例②1,770万円 例③2,160万円 例④1,740万円
仮設工事の工事金額の割合は、「19.2%」で、
例①862万円 例②340万円 例③415万円 例④334万円となります。
なお、仮設工事とは資材置き場、仮設倉庫、仮設トイレなどを設置するほか、足場や工事など工事のための準備として行う工事を指します。
外壁補修・塗装
例別費用:例①4,490万円 例②1,770万円 例③2,160万円 例④1,740万円
外壁塗装や外壁タイルの工事金額の割合は「24.0%」で、
例①1,078万円 例②425万円 例③518万円 例④418万円となります。
なお、外壁塗装とは外壁に付着した汚れや既存の塗膜を除去し、劣化した部分を補修して、新たな塗装を行う工事を指します。
給水・排水管の設備
例別費用:例①4,490万円 例②1,770万円 例③2,160万円 例④1,740万円
給水・排水管の設備の工事金額の割合は「9.4%」で、
例①422万円 例②166万円 例③203万円 例④164万円となります。
なお、給水・排水管の設備とは、貯水槽や水道、排水管、雨水管などを指します。
屋根防水・床防水
例別費用:例①4,490万円 例②1,770万円 例③2,160万円 例④1,740万円
屋根防水・床防水の工事金額の割合は「22%」で、
例①988万円 例②389万円 例③475万円 例④383万円となります。
なお、屋根防水・床防水とは屋上やバルコニー、外部に開放された廊下などの不具合部分を補修した上で防水を行う工事を指します。
鉄部塗装
例別費用:例①4,490万円 例②1,770万円 例③2,160万円 例④1,740万円
鉄部塗装の工事金額の割合は「4.9%」で、
例①220万円 例②87万円 例③106万円 例④85万円となります。
なお、鉄部塗装は玄関扉、エレベーター扉、手すり、パイプスペースなど鉄製の部位を錆や塗膜の剥がれ、キズを除去した上で錆止め、下塗り、中塗り、上塗りを行う工事を指します。
大規模修繕の費用を抑える方法

大規模修繕は多額の費用がかかります。このため、大規模修繕でかかる費用を安く抑えたいと考えるのは当然です。
とはいえ、大規模修繕にかかる費用の抑える方法について理解をしておかないと、修繕が適切に行われず、「2回目の大規模修繕の費用が増えてしまう」といった不利益を被る可能性があります。
こういった事態を防ぐためにも、安易な方法で費用を抑えるのではなく、適切な方法を理解して費用を抑えることが重要です。
【方法1】適切なタイミングで大規模修繕を実施する
適切なタイミングで大規模修繕を行うことで費用を抑えることができます。大規模修繕の目安は10年〜15年程度と言われており、このタイミングより遅れて大規模修繕を実施すると、直さなければならない範囲が広くなる可能性があるためです。
例えば、10年〜15年経過すると塗料や防水材が寿命になり、適切な効果を発揮できなくなるため、雨水などによって建物に深刻なダメージを与えます。そうなると、当然修繕箇所が増え、費用がかかってしまうのです。
このため、10年が経過したあたりで、建物診断を行い状態の確認をすることが重要になります。状態が良ければ工事をする必要がなく、多少劣化していたとしても深刻な状態でなければ費用を抑えた補修で済む場合も少なくありません。
このように、費用を抑えるためには建物診断を行って、適切なタイミングで大規模修繕を行うことが重要です。
【方法2】複数社から相見積もりをとって比較検討する
複数の会社の見積もりをとって、比較検討をして安い会社に依頼することで、費用を抑えることができます。
とはいえ、安いというだけで安易に会社を選んでしまうと、大規模修繕は成功しません。会社の実績や工事に不備があった際のアフターフォローなど、費用だけでなくサービスや内容も含めて、会社を選ぶことが重要です。
仮に費用が安いという理由だけで安易に業者を決めてしまうと、補修が適切に行われずに2回目の大規模修繕の際に「適切に工事が実施されていたら必要でなかった補修が必要になる」という事態になりかねません。
このため、費用以外の要素を含めて総合的に判断して、依頼する業者を決めるようにしましょう。
【方法3】信頼できるパートナーを見つける
大規模修繕は信頼できるパートナーを見つけることも、費用を抑えるために重要なポイントになります。一般的に、大規模修繕を行う場合、工事業者ごとに依頼をするのではなく、建築会社や管理会社、設計事務所などの専門家に依頼して、その専門家が工事業者の手配を行うためです。
したがって、信頼性の低い業者に依頼をしてしまうと、「手数料を高く取られてしまう」や、「わざと手配した業者に高い見積もりを出させる」といった被害に遭いかねません。
一方で、信頼できる専門家の場合は、専門家が判断する場面で適切なサポートをしてくれ、費用を抑えることが期待できます。
このため、信頼できるパートナーを探すのに尽力してみてください。
ちなみに、信頼できる業者を見つける際のポイントは、以下です。
・ホームページから大規模修繕の実績を確認する
・資本金が豊富な会社に依頼をする
・担当者の対応が迅速かを確認する
上記のポイントを確認して、依頼する業者を見極めるようにしましょう。
費用が足りない場合の対処法
大規模修繕は多額の費用がかかるため、修繕積立金だけでは足りないケースも少なくありません。
しかし、いくら費用が足りなくても、大規模修繕は実施する必要があります。そのため、費用が足りないときの対処法を理解しておくことが重要です。
ここでは、大規模修繕の費用が足りないときの対処法について紹介します。
【方法1】建物診断を行い工事内容を見直す
大規模修繕の費用が足りないときに、まず実施するべき対処法は、建物診断を行って工事内容を見直すことです。
例えば、修繕予定だった場所を次回の大規模修繕まで持つように維持するための工事に切り替えることで、工事費用を安くすることが出来ます。
とはいえ、その方法が該当しない工事も存在します。そのため、工事内容の見直しを実施する際は建物診断を行って、工事の優先順位を専門家と決めることが重要です。専門家に相談することで、「今回の大規模修繕で必要な工事」、「先延ばしができる工事」、「大規模修繕で行ったほうが安くなる工事」などに分類してくれます。
工事内容を分類することで、実施するべき工事内容を見直して、予算にあった費用にまで下げることが可能です。
【方法2】金融機関から借り入れをする
一時金の徴収などの方法が難しい場合には、金融機関から借入れを行って対応する方法が有効です。
例えば、銀行などの民間金融機関でリフォームローンなどの融資を利用して、大規模修繕の費用を調達します。
ただし、当然融資であるため、借入金を返済しなければなりません。そのため、借入れをする場合には、返済計画を立てたうえで、返済できる見込みがある場合のみ利用するようにしてください。
追加費用について
大規模修繕を実施した際に追加費用がかかるケースは珍しくありません。実際の劣化具合や必要な補修工事に関しては、大規模修繕をしないと判断できないためです。
実際、建物診断によってある程度の目安を把握することはできますが、詳細状況については工事を実施しないとわからないケースも珍しくありません。
とはいえ、有料の建物診断を行っている場合には、綿密に調査を行っているため、建物診断を実施していない場合よりも多額の追加費用がかかるケースは稀です。