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賃貸住宅のオーナーなら知っておきたい「大規模修繕」②大規模修繕の周期の目安は?

安定した賃貸経営のためには、適切な時期に大規模修繕を行うことが必要です。建物は経年とともに、外観の劣化や施設・設備の傷み、不具合が生じてきますが、そのままにしておくと、周辺の新築物件や競合物件と比べて見劣りしてしまい、競争力が低下。家賃収入にも響いてきます。そうなる前に、早めに手を打っていくことが肝心です。
大規模修繕は大がかりな修繕工事になる上、築年数が経っていればリニューアルやリノベーションをしたほうがよい場合も多くみられます。多額の費用を要するため、いつごろ、どのような修繕を行うべきか、実施時期の目安を把握しておきましょう。
なぜ12年周期が推奨されるのか
一般に、アパートやマンションはおよそ12年ごとに、建物の外観から共用部全般までを対象に、足場をかけて大々的に修繕工事を行います。
しかしながら、12年という年数は法律で定められたものではありません。あくまでも目安であり、劣化が進んでいれば、12年を待たずに大規模修繕したほうがよい場合もあります。逆に、とくに大きな問題がなければ、12年を超えて実施する場合も少なくありません。
実際、国土交通省が2017年に実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によれば、大規模修繕工事は概ね第1回目は築13~16年前後、2回目は築26~33年前後、3回目以上は築37~45年前後の時期で実施されていることが明らかになりました。
https://www.mlit.go.jp/common/001234283.pdf
では、なぜ12年周期が定着しているのでしょうか。その理由として、以下の2点が挙げられます。
まず、国土交通省が公開している「長期修繕計画作成ガイドライン」の影響です。そもそもこのガイドラインは、マンションという建物を維持管理していく上で多くの課題を抱えていることから、2008年に策定されました。
ガイドラインでは、マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、建物の経年劣化に対して適時適切な修繕工事などを行うことが重要であるといい、そのためには適切な長期修繕計画を作成し、これに基づいた修繕積立金の額を設定して積み立てることが必要と説いています。
そして、「計画期間の設定」のなかで、計画期間は30年以上とされ、コメントとして「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に 12~15 年程度ですので、見直し時には、これが2回含まれる期間以上とします。」と記しています。「一般的に 12~15 年程度」との表現から、12年周期で長期修繕計画を作成するのが一般化したといわれています。
もうひとつの理由は、建築基準法施工規則の改正(2008年4月1日)です。これによって、築10年を経過した外壁がタイル貼のマンションは、築13年になるまでに外壁の「全面打診調査」が義務付けられるようになりました。
全面打診調査とは、タイルを叩いて浮きなどがないか、外壁の劣化具合を確認する調査です。まず、手が届く範囲で打診調査を行い、異常があれば、足場をかけて外壁全面の調査をしなければなりません。調査のために足場をかけるのであれば、大規模修繕を実施したほうが費用面でも効率的です。そこで、築12年で大規模修繕を行うマンションが増え、12年周期が定着しました。
部位ごとの修繕時期の目安

アパートであれマンションであれ、大規模修繕は建物の劣化具合を見極めた上で行うことが重要です。それにはまず、建物本体から室内設備に至るまで、各部位の修繕・更新時期の目安を知っておきましょう。
劣化具合を見極めるチェックポイントと修繕・更新時期の目安を下記にまとめましたので、参考にしてみてください。
【建物本体】
□傾斜屋根(カラーベスト)
●チェックポイント
・塗膜の劣化による色あせはないか
・屋根表面にコケやカビなどの発生がないか
・素地自体が変形・ゆがみを起こし、雨漏りなど発生していないか
●修繕内容と時期の目安…塗装/11~15年目
□陸屋根・ルーフバルコニー
●チェックポイント
・トタン系の場合、錆の発生やボルトキャップの劣化がないか
・防水面の膨れや亀裂、シーリングの劣化がないか
・バルコニー下、軒天部などにくすみやシミなどがないか
●修繕内容と時期の目安…塗装/11~15年目
防水処理/21~25年目
□外壁(モルタル・サイディング・パネル)
●チェックポイント
・塗膜が粉状態になっていないか
・コケやカビなどが発生していないか
・クラックが発生していないか
●修繕内容と時期の目安…塗装/11~15年目
□外壁(タイル・コンクリート打放し)
●チェックポイント
・打診点検や赤外線を使った点検で、割れや浮きがないか
・雨水汚れやコケ・カビの発生がないか
・タイルの目地部分の欠損はないか
●修繕内容と時期の目安…貼替・塗装/11~15年目
□雨樋
●チェックポイント
・落ち葉やほこりなどで詰まっていないか
・近くに大きな樹木がある場合は落ち葉のつまりが発生しやすいので、定期的な点検が望ましい
・ジョイント部分の外れや、樋自体のゆがみなどがないか
●修繕内容と時期の目安…塗装/11~15年目
□ベランダ
●チェックポイント
・鉄部の錆や腐食はないか
・床面の防水は問題ないか
・結合部の破断や欠損はないか
●修繕内容と時期の目安…鉄部の塗装/5~10年目
床面の防水処理/11~15年目
□階段・廊下
●チェックポイント
・鉄部の錆や腐食はないか
・床面の防水は問題ないか
・階段・廊下は使用頻度が高いので、他の部位に比べて劣化の進行が早い
●修繕内容と時期の目安…鉄部の塗装/5~10年目
床面の防水処理/11~15年目
【室内設備】
□給湯・バランス釜
●チェックポイント
・冬場や夏場、豪雨時に故障が多く発生するため、定期的なメンテナンスが必要
・入退去時にふろ釜のクリーニングを行うのが望ましい
●修理の目安…5~10年目
●一斉交換の目安…11~15年目
□エアコン
●チェックポイント
・冬場や夏場の故障はクレームにつながるため、定期的なメンテナンスが必要
・入退去時にエアコンのクリーニングを行うのが望ましい
●修理の目安…5~10年目
●一斉交換の目安…11~15年目
□浴室設備(ユニットバス)
●チェックポイント
・FRP製の場合、汚れや割れが目立たなければ交換の必要なし
・入退去時に排水パイプや浴槽下の掃除を行うのが望ましい
・水栓器具も水漏れの原因となるため、入退去時の確認が必要。5~10年が交換の目安
●修理の目安…5~10年目
●本体交換の目安…20~25年目
□厨房設備(台所・キッチン)
●チェックポイント
・油汚れはどの程度か
・入居者の使用状況によって更新周期は異なる
●修理の目安…5~10年目
●部分交換の目安…11~15年目
□洗面化粧台
●チェックポイント
・本体が陶器製の場合、汚れや割れが目立たなければ交換の必要なし
・本体が樹脂製の場合、日光を受けると劣化する場合がある
●修理の目安…5~10年目
●部分交換の目安…11~15年目
□トイレ
●チェックポイント
・本体が陶器製なので、汚れや割れが目立たなければ交換の必要なし
・フロートやポールタップなどの部品は3~5おきにメンテナンスまたは交換を
・詰まりなどが頻発すると水漏れが発生するので、定期的に汚れを確認する
●修理の目安…5~10年目
【その他】
□配管(給排水管・桝)
●チェックポイント
・鉄管・銅管は20年、塩化ビニル管はおよそ30年もつといわれているが、継手部については20年以内を目安に点検が望ましい
・排水管はおよそ1~3年ごとの高圧洗浄を行うことが望ましい
□外部建具
●チェックポイント
・鉄部には錆や腐食などがないか
・アルミサッシは経年の影響を受けにくいが、汚れが付着するので定期的に清掃が望ましい
□外構
●チェックポイント
・鉄部には錆や腐食などがないか
・駐車場ラインの色あせや通路の汚れがないか
・植栽などは、立地条件にもよるが、年間1回の手入れ・点検が望ましい
□浄化槽
●チェックポイント
・浄化槽本体の更新は概ね30年だが、ブロアは5年ごとの交換を
・地域によっては浄化槽を撤廃して本下水へ切り替えが必要な場合も
□給水設備(受水槽・ポンプ)
●チェックポイント
・受水槽の更新は概ね30年だが、屋外に設置されている場合は10~15年を目安に塗装が必要
・ポンプは3~5年を目安にオーバーホールを、10~15年を目安に交換が必要
・オーバーホールを定期的に実施することで延命につながる
□エレベーター
●チェックポイント
・エレベーター本体の更新は概ね30年だが、保全管理については専門のメンテナンス会社との協議が必要
・定期的な点検が義務づけられている
アパートやマンションの標準的な建物修繕の目安
上記を踏まえ、アパートやマンションの修繕を30年のスパンで検討していくと、標準的な建物修繕の実施時期は下記のようなイメージになります。

ここで注意しておきたいのは、屋上防水や外壁塗装、ベランダやルーフなどの防水工事には足場をかける必要があることです。足場をかける費用は工事費用全体の25%を占めるほど高額のため、それらをまとめて大規模修繕で行えば、費用面でも作業面でも効率的です。
なお、上記はあくまでも目安にすぎず、建物に明らかな劣化がみられる場合や、災害などにより損傷を受けた場合、外壁のタイルなどが落下して第三者へ危害を加える恐れがあります。その場合は周期に関係なく、できるだけ早く修繕工事を行いましょう。
大規模修繕を行う前には建物診断を
実際に大規模修繕を行う前に、建物の状態を把握するために建物診断を受けましょう。日常点検や定期点検とは別に、概ね5~15年ごとに行われるのが一般的です。
建物診断の実施にあたっては、建物や設備に関する高い専門知識が求められることから、日常管理を委託している管理会社や施工会社、設計コンサルタントなどの専門会社に依頼することをおすすめします。
診断項目は長期修繕計画に記載されたすべての項目です。各診断項目について、目視(必要に応じて双眼鏡やカメラを使用)、打診、触診および機械による計測調査などにより、細かく調査していきます。建物診断を行うことで、大規模修繕の実施時期や修繕範囲、修繕仕様を決める根拠となり、おおまかな修繕費用の概算も算出できます。
大規模修繕は回を重ねるごとにグレードアップも
新築時には最先端の機能・性能を有した建物でも、築年数が経てば陳腐化してしまうのはよく見られることです。ライフスタイルの変化や技術の進歩によって、社会的に求められる機能・性能が向上していくため、やむを得ないことといえるでしょう。
こうした市場価値の劣化に対応していくためには、オーナーは常に居住者のニーズを把握し、修繕工事と合わせてリフォーム以外にもリニューアルやリノベーションといったグレードアップの工事を実施することも必要となります。
つまり、大規模修繕においては、1回目では建物の維持・保全を目的としますが、2回目は機能復旧、3回目では機能復旧に加えてグレードアップが目的となります。
<グレードアップ工事の例>
・バリアフリー化
・和室を洋室に変更
・宅配ボックスの設置
・テレビドアホンの設置
・オートロックシステムの更新
・自動ドアの新設
・防犯・安全対策設備の設置など

12年周期にこだわらず、適切な時期に大規模修繕を
一般に、大規模修繕の実施時期の目安は12年周期といわれていますが、建物の立地や構造、管理状態などによって大きく左右されます。それゆえ、12年周期にこだわらず、建物の劣化具合を見極めた上で、適切な時期に大規模修繕を行うことが重要です。
建物の劣化具合を見極めるには、専門家による建物診断が欠かせません。これにより、大規模修繕の実施時期や修繕範囲、修繕仕様を決定する根拠となるほか、おおまかな修繕費用の概算も算出できます。
なお、2回目、3回目と継続的に大規模修繕を行うなかで注意したいのが、建物の物理的劣化だけでなく、市場価値の劣化への対応です。回を重ねるごとに、社会的ニーズに応えたリニューアルやリノベーションの工事も実施することで、賃料を下げることなく、入居率の安定を図ることができます。
長期的な視野に立ってアパートやマンションの賃貸経営を行っていくためには、日常的な点検や専門家による定期点検を行い、不具合箇所の早期発見に努めることが大事です。その上で長期修繕計画を立て、計画的に修繕を実施し、建物の価値を維持していきましょう。